残業を許可制とする就業規則がある場合に残業代請求が認められるか
1 残業の許可制
未払残業代請求の事件を担当していると,たまにですが,
残業を許可制としている就業規則を見ることがあります。
具体的には,「従業員が時間外労働を行う場合には,
原則として所属長に事前の承認を得なければならない」
などという就業規則の条項があります。
労働者が未払残業代請求をすると,会社から,
うちは残業をする場合は,事前に会社の許可をとる必要があるところ,
当該労働者は,事前に会社の許可をとらずに
勝手に残業をしていたのであるから,残業代を支払わない,
という反論がされることがあるのです。
それでは,このような残業を許可制としている
就業規則の条項がある場合,残業代請求は認められないのでしょうか。
結論を先に言えば,残業を許可制としている
就業規則の条項があったとしても,
残業代請求が認められる可能性は十分にあります。
2 労働時間とは
労働者が,会社に対して,残業代を請求するには,
残業をしている時間が,労働時間といえなければなりません。
では,労働時間とはどのような時間でしょうか。
労働時間とは,労働者が会社の指揮監督下にある時間です。
会社の指揮監督下にある時間なので,会社から,労働者に対して,
この仕事をしなさいと明示の指示があり,
会社から指示された仕事をしていた時間は,
当然に労働時間になります。
加えて,会社の指揮監督下にある時間には,
会社の明示の指示がある場合だけでなく,
会社の黙示の指示がある場合も含まれます。
3 黙示の指示とは
黙示の指示とは,労働者が残業していることを会社が黙認していて,
残業していることについて異議を述べていなかった場合や,
労働者の仕事量が多くて,とても所定労働時間内には処理できず,
残業が常態化している場合に認められます。
ようするに,会社が明示的に残業を指示していなくても,
残業を知ってて放置していたり,残業しなければ終わらないような
仕事量を与えていたのであれば,黙示の指示が認められて,
会社は,残業代を支払われなければならないのです。
そのため,会社が,就業規則に残業の許可制があり,
残業を許可していなかったと主張しても,
黙示の指示が認められる場合には,
労働者の残業代請求が認められるのです。
そして,黙示の指示が認められることは多いと実感しています。
ちなみに,昭和観光事件の大阪地裁平成18年10月6日判決
(労働判例930号43頁)では,
残業を許可制とする就業規則の条項について,
不当な残業代の支払いがなされないようにするための工夫を定めただけで,
事前に残業の許可を受けていなくても
残業代の請求権が失われる規定ではないと判断されました。
残業の許可制があって,実際に残業代の請求が認められないのは,
会社から残業禁止命令が出されて,
残業がある場合には役職者に引き継ぐことを命じて,
これが徹底されていたような場合です
(神代学園ミューズ音楽院事件の東京高裁平成17年3月30日判決・
労働判例905号72頁参照)。
ようするに,残業を許可制とする就業規則の条項があるだけではだめで,
実際に残業の禁止が徹底されていない限り,
労働者の残業代請求は認められることになります。
そのため,残業を許可制とする就業規則の条項があっても,
労働者は,ひるむことなく,会社に対して,
未払残業代を請求すべきなのです。
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