取締役でも労災認定される場合がある

1 名ばかり役員の労災認定

 

 

東京都内のビルメンテナンス会社の取締役であった男性が,

職場で脳出血を発症したのは,長時間労働が原因であったとして,

労働基準監督署が労災認定をしました。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/e1c1391fc54d008fe96d08e99420eed33c81b783

 

 

報道によりますと,被災した男性は,取締役という肩書でしたが,

勤務実態から,労働者と認定されて,労災と認定されたようです。

 

 

労災保険による補償を受けるためには,

被災者が労災保険法が適用される労働者に該当する必要があります。

 

 

他方,取締役は,通常,会社の経営者として業務執行権をもち,

賃金ではなく役員報酬を受け取っているので,

労働者に該当しないのが原則です。

 

 

もっとも,取締役という肩書がついていても,

単に代表取締役の指揮命令のもとで働いていたにすぎない場合には,

名目的な取締役であるとして,労働者に該当し,

労災保険法が適用されることがあります。

 

 

それでは,どのような場合であれば,

取締役であっても,労働者であるとして,

労災保険法が適用されるのでしょうか。

 

 

 

労働者とは,使用者との使用従属関係のもとに労務を提供し,

その対価として使用者から賃金の支払を受ける者とされています。

 

 

もっとも,この定義では抽象的なので,実務では,

さまざまな事情を総合考慮して,労働者か否かが判断されます。

 

 

2 取締役でも労災保険法が適用されることがある

 

 

ここで,専務取締役であった被災者が労働者と認定された,

大阪中央労基署長(おかざき)事件の

大阪地裁平成15年10月29日判決(労働判例866号58頁)

を紹介します。

 

 

この事件では,次の事情を総合考慮して,

専務取締役であった被災者が労働者と判断されました。

 

 

①18年間にもわたって営業の仕事を担当し,この限りで,

使用従属関係のもとで,労務を提供していたこと

 

 

②専務取締役に就任しても,営業の業務内容に変化はなかったこと

 

 

③被災者は,事務所の掃除を行うことがあったこと

 

 

④他の従業員と同様に社長から叱責を受けていたこと

 

 

⑤会社では取締役会が通常開かれていなかったこと

 

 

他方で,この事件の専務取締役であった被災者は,

取締役として登記されていたこと,

従業員の採用や賃金の決定に関与していたこと,

社長不在時には決済を代行していたこと,

社長と同額の報酬をもらい,

労働時間管理を受けていなかった,

などの労働者であることを否定する方向の事情もありました。

 

 

 

それでも,以上の事情を総合考慮して,

専務取締役であった被災者は,

労働者に該当するとされました。

 

 

冒頭のビルメンテナンス会社の労災事件においても,

取締役就任前後で仕事内容に変化がなかったこと,

役員報酬ではなく,給与の支給であったこと,

雇用保険の資格を取得していたこと,

などの事情から,総合的に労働者に該当するとされました。

 

 

そのため,取締役が労働災害にまきこまれた場合,

実態をよく調査して,労働者に該当する事情があれば,

あきらめずに,労災申請をすることをおすすめします。

 

 

取締役であっても,労働者として労災認定されれば,

治療費は労災保険から全額支給されますし,

後遺障害が残った場合には,後遺障害に関する補償を受けられますので,

労災保険を利用できるメリットは大きいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。