パワハラの労災認定基準が変わります
1 精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書
今年の6月から大企業では,パワハラを防止するために
必要な措置をとらなければならないことが義務付けられます。
パワハラを法律で定義した
改正労働施策総合推進法が施行されるのです。
この法律では,パワハラは,
①優越的な関係を背景とした言動であって,
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,
③就業環境が害されるもの,
と定義されました。
このパワハラの定義をふまえて,
仕事が原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合の
労災認定基準が見直されることになります。
5月15日に,「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」
が発表されましたので,本日は,この報告書について説明します。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11305.html
2 新しくパワハラの類型が追加されます
これまでの精神障害の労災認定基準において,パワハラは,
「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」
という出来事で評価されていました。
今回の報告書では,パワハラを独立した出来事の類型として,
「上司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」
として追加することになりました。
精神障害の労災認定基準では,労働者が仕事中の出来事から受けた
心理的負荷が「強」といえれば,労災と認定されることになり,
具体的な出来事ごとに,どのような場合に,
心理的負荷が「強」と評価されるかの具体例が記載されています。
3 心理的負荷が「強」になるパワハラの具体例
今回の報告書では,次のような場合に,
心理的負荷が「強」と評価されるとしました。
①上司等から,治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
②上司等から,暴行等の身体的攻撃が執拗に行われた場合
③上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
・人格や人間性を否定するような,業務上明らかに必要性がない
又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責,
他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など,
態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
これらの具体例で私が気になったことを指摘します。
①については,「治療を要する程度」としていますが,
暴行を受けても,そこまで大きなけがではなく,
病院で治療をしないこともありますが,そのような暴行でも,
心理的負荷は大きいと思います。
職場で暴行が行われることが,そもそも異常事態なので,
労働者が受ける心理的負荷は強いと考えます。
そのため,暴行を受けた労働者が,
病院を受診していなくても,労災と認定する必要があります。
②と③については,「執拗に」という文言が抽象的なので,
恣意的な解釈がされるリスクがあるので,
「継続して」に変更すべきと考えます。
特に,暴行等の身体的攻撃については,一回であっても,
労働者が受ける心理的負荷が強いことがありまし,
言葉の暴力である精神的攻撃についても,
「殺してやろうか」などのように一回言われただけでも,
心理的負荷が強いものもあります。
そのため,「執拗に」という表現ではなく,
せめて「継続して」という表現に改善すべきと考えます。
その他に,パワハラの被害を会社に相談したけれども,
適切に対応してくれなくて,改善されなかった場合には,
心理的負荷が「強」と評価されることになります。
この点は,会社にパワハラを予防させる方向につながりますので,
よい改訂だと思います。
報告書の内容に不満な点もありますが,
パワハラの労災認定基準が変わりますので,
しっかりと対応していきたいと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。