1 緊急事態宣言と休業手当
新型コロナウイルスの感染拡大がとまらず,
東京では2日連続で感染者が100人を超えました。
新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用対象に,
新型コロナウイルス感染症が追加される改正がなされていますので
(いわゆる新型コロナ特措法),
国が緊急事態宣言をだすことが現実的になりつつあります。
そして,厚生労働省は,新型コロナ特措法に基づく
緊急事態宣言がだされて,ライブハウスや映画館などが
営業を停止した場合の労働者への休業手当について,
休業手当の支払義務の対象にならないとの見解を示しました。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202004/CK2020040302000154.html
本日は,緊急事態宣言と休業手当について説明します。
2 緊急事態宣言
緊急事態宣言がなされますと,都道府県知事は,
感染症蔓延の防止のための措置をとることができます。
感染症蔓延の防止のための措置として,協力要請があります。
協力要請とは,都道府県知事が,住民に対して
外出制限の協力を要請したり,学校や様々な施設
(デパート,ホテル,美術館,ナイトクラブ,
ライブハウス,映画館,理髪店など)の使用の制限や
そこでのイベントの制限の協力を要請することです。
施設の管理者やイベントの主催者が,
都道府県知事の協力要請に対して,正当な理由なく,
従わなかった場合,都道府県知事は,
施設の管理者やイベントの主催者に対して,
一定の入場制限や手指の消毒などの措置を講じるように指示ができます。
そして,都道府県知事は,協力要請や指示を行った場合には,
そのことを公表します。
指示を公表することは,施設の管理者やイベントの主催者が
都道府県知事の協力要請に従わなかったことを意味します。
K-1の大会が埼玉県の自粛要請に応じないで実施されたことに
多くの批難が殺到したように,おそらく,上記の指示が公表されると,
施設の管理者やイベントの主催者は,世間から,
バッシングを受けることが予想されます。
そのため,協力要請や指示に罰則はないのですが,
事実上,施設の管理者やイベントの主催者は,
協力要請に従わざるをえないことになると考えられます。
3 休業手当の支払義務がない不可抗力といえるか
ここまできますと,休業手当の支払義務はない
とされてもやむを得ないと思います。
労働基準法26条に基づく休業手当は,
使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に,
休業期間中,労働者に対して,平均賃金の6割を補償するというものです。
ここで,使用者の責めに帰すべき事由とは,
経営者として不可抗力を主張しえない
一切の場合を包含するものとされています。
会社にとって休業が不可抗力であったか否かがポイントになります。
不可抗力であったか否かの判断は難しいのですが,
第1に,その原因が事業の外部より発生した事故であること,
第2に,事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても
なお避けることのできない事故であること
の2つの要件を備える必要があります。
新型コロナウイルスの感染拡大は,会社の外部で発生した現象であり,
それによって,緊急事態宣言がだされて,協力要請を求められれば,
事実上従わざるをえないので,通常の経営者として
最大の注意を尽くしてもなお避けることができない
と評価される可能性があります。
そのため,緊急事態宣言がだされて,協力要請を求められ,
会社を休業することになった場合,
使用者の責めに帰すべき事由による休業とはいえず,
会社は,休業手当を支払わなくてもよいことになりそうです。
ただ,こうなると,緊急事態宣言による協力要請を受けた
会社の労働者は,全く給料の補償がなく,生活が困窮します。
そのため,国は,緊急事態宣言をだすのであれば,
協力要請を受けることになる会社とその労働者に対する
十分の補償を迅速に実施すべきです。
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