宮西香弁護士が金沢弁護士会の会長に就任しました

当事務所の宮西香弁護士が2020年4月1日に,金沢弁護士会の会長に就任しました。

 

http://www.kanazawa-bengo.com/about/greeting/index.html

タクシー運転手の未払残業代請求事件で重要な判決がでました~国際自動車事件最高裁判決~

1 国際自動車事件最高裁判決

 

 

2020年3月30日,最高裁において

残業代請求事件で重要な判決がくだされました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3Z6STHN3ZUTIL014.html

 

 

国際自動車事件と呼ばれる,

タクシー運転手による未払残業代請求事件です。

 

 

 

国際自動車というタクシー会社では,

複雑な賃金体系が採用されていて,

弁護士の私が見ても,よくわからないものになっています。

 

 

複雑な賃金体系の中で,問題になったのは

タクシーの売上高に応じて支給される歩合給の計算において,

残業代相当額が歩合給の計算の過程で

差し引かれることになっていた点です。

 

 

基本給と残業代が支給されていても,別に支給される歩合給から,

残業代が引かれて,歩合給が減額されるのでは,

実質的には残業代がゼロと評価される余地があります。

 

 

そのため,通常の労働時間の賃金に当たる部分と

労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを

判別することができるのかが争点となりました。

 

 

2 労働基準法37条の趣旨から判別可能性を検討する

 

 

まず,最高裁は,労働基準法37条で会社に対して,

時間外労働について割増賃金を支払うことを義務付けている趣旨は,

会社に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働を抑制して,

労働基準法に定められている労働時間規制を守らせて,

労働者への補償を行うことにあるとしました。

 

 

次に,会社が労働者に対して,労働基準法37条の定める

割増賃金を支払ったかを判断するためには,

労働契約における賃金の定めにつき,

通常の労働時間の賃金に当たる部分と

労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを

判別できることが必要になります。

 

 

そして,この判別できるというためには,

会社が割増賃金であると主張する手当が,

時間外労働に対する対価として支払われるものである必要があり,

労働契約書の記載内容のほかに,当該手当の名称や算定方法だけでなく,

労働基準法37条の趣旨をふまえて,

労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置づけなど

にも留意して検討しなければなりません。

 

 

3 国際自動車事件では判別可能性なしと判断されました

 

 

国際自動車事件では,会社は,深夜手当,残業手当,公出手当を

労働基準法37条の割増賃金として支払ったと主張しました。

 

 

 

しかし,これらの手当が歩合給の計算にあたり控除されて,

歩合給が減額される仕組みは,タクシー運転手が

売上高を得るために生じる割増賃金をその経費とみた上で,

その全額をタクシー運転手に負担させているに等しく,

労働基準法37条の趣旨に沿わないと判断されました。

 

 

また,割増賃金が多くなり,歩合給がゼロになれば,

出来高払制の賃金部分について,割増賃金のみが支払われることになり,

出来高払制の賃金部分につき通常の労働時間の賃金にあたる部分はなく,

全てが割増賃金となるのですが,これは,

労働基準法37条の割増賃金の本質から逸脱しています。

 

 

そのため,国際自動車事件の賃金の仕組みは,実質において,

出来高払制のもとで歩合給として支払う賃金を,

時間外労働がある場合に,その一部につき名目のみを

割増賃金に置き換えて支払っているものとされました。

 

 

その結果,深夜手当,残業手当,公出手当には,その一部に

時間外労働に対する対価として支払われているものが

含まれているとしても,通常の労働時間の賃金の部分を

相当程度含んでおり,どの部分が時間外労働に対する対価にあたるかが

明らかではありません。

 

 

よって,通常の労働時間の賃金に当たる部分と

労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別できないと判断され,

深夜手当,残業手当,公出手当の支払いにより,

労働基準法37条の割増賃金を支払ったことにはならないとされました。

 

 

会社が残業代と考えて支払った深夜手当,残業手当,公出手当が

残業代の支払いではないと判断されたので,

会社は追加で残業代を支払わなければならなくなりました。

 

 

ある手当が時間外労働の対価として本当に支払われていたのかを,

賃金体系全体における位置付けから検討する手法は,

労働者が固定残業代制度を否定していく上で,有効に活用できそうです。

 

 

今後の固定残業代制度の裁判に影響を与える

重要な判決なので紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。