未払残業代を含む賃金債権の消滅時効の期間が延長されるのか?
1 未払残業代を含む賃金債権の消滅時効の延長の議論
未払残業代を含む賃金債権の消滅時効を延長する議論が
労働政策審議会においてされており,12月24日に,
公益委員から2年の消滅時効を3年に延長する案が示されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08597.html
本日は,未払残業代を含む賃金債権の
消滅時効の延長について解説します。
2 消滅時効とは
まず,消滅時効について解説します。
そもそも,ある人がある人に対して,
何かをしてくださいと請求できる権利を債権といい,
請求できる人を債権者,請求される人を債務者といいます。
例えば,労働者が会社と労働契約を締結して,仕事をした場合,
労働者(債権者)は,会社(債務者)に対して,給料を請求できます。
これを賃金債権といいます。
このような債権は,一定の時間が経過すれば,消滅してしまうのです。
このように,一定の時間が経過することで債権が消滅する制度を,
債権の消滅時効といいます。
なぜ,このような債権の消滅時効制度があるのかといいますと,
次の3つの理由があるといわれています。
①長期にわたって存続している事実状態を尊重して,
その事実状態を前提として構築された
社会秩序や法律関係の安定を図ること。
②過去の事実の立証の困難を救い,
真の権利者ないしは債務から解放された者を保護すること。
③権利の上に眠る者は保護に値せずということ。
おおまかには以上の3つの理由があるのですが,法律で,
何年か経ったら時効で消滅すると記載されているので,
時効期間が経過してしまえば,債権者は,
債務者に対する請求をあきらめざるをえないのです。
3 賃金債権の消滅時効
次に,賃金債権の消滅時効について説明します。
もともと,現行民法174条1号において,
賃金債権の消滅時効は1年になっていました。
しかし,賃金債権は,労働者にとって生活の糧となるものであり,
それがたったの1年で消滅するのでは,
労働者の保護に欠けることになります。
そこで,労働基準法115条が制定されて,
賃金債権の消滅時効が1年から2年に延長されたのです。
4 民法改正で消滅時効が5年に統一される
ところが,2020年4月から改正民法が施行されることになり,
現行民法に記載されていた様々な期間の消滅時効が
全て5年に統一されることになりました。
そうなりますと,労働者保護のために
賃金債権の消滅時効を2年にしていたのですが,
他の債権の消滅時効が5年になるのに,
賃金債権の消滅時効が2年のままですと,
労働者の保護に欠けることになります。
そこで,改正民法の消滅時効を5年に統一することにあわせて,
賃金債権の消滅時効を5年に延長すべきではないか
が議論されてきたのです。
しかし,労働政策審議会では,企業側の委員が大反発して,
現行の消滅時効2年を維持することを訴え続けました。
結局,労使の委員で合意することができず,
2020年4月の改正民法施行が近づいてきたこともあり,
12月24日に公益委員から次の折衷案がだされました。
まず,民法改正により債権の消滅時効が5年に統一される
バランスをふまえ,賃金債権の消滅時効は5年とする。
もっとも,賃金債権について,直ちに消滅時効を5年に延長すると,
労使の権利関係を不安定化するおそれがあり,
紛争の早期解決・未然防止という賃金債権の消滅時効が果たす役割の
影響を踏まえて慎重に検討する必要がある。
そこで,当分の間,賃金債権の消滅時効を3年として,
一定の労働者保護を図り,5年後に再び,
状況をみながら消滅時効を5年にするかを検討する。
そして,2020年4月1日以降に発生した賃金債権から,
消滅時効が3年に延長されるというものです。
5 賃金債権の消滅時効は5年に延長されるべきです
労使双方のかおをたてた折衷案ですが,中途半端な感はいなめません。
論理的に考えれば,民法改正にあわせて
賃金債権を5年に延長すべきであり,
中途半端に3年にすべきではありません。
むしろ,賃金債権の消滅時効が5年になれば,
企業は,5年分の残業代を支払うことを嫌がり,
否が応でも,残業を規制することになり,
長時間労働の撲滅につながると思います。
なんとか,賃金債権の消滅時効が5年になることを期待したいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。