労働者の私生活における犯罪行為と懲戒処分

私は,労働事件を得意として,労働事件を多く取り扱っていますが,

労働事件以外の事件も当然に取り扱っています。

 

 

例えば,労働事件以外の事件ですと,

当番弁護士や被疑者国選が順番で回ってきて,

逮捕や勾留された被疑者の刑事弁護をする

刑事事件も担当しています。

 

 

労働者が勤務時間外に会社とは関係のない犯罪をした場合,

労働者は,勤務先から懲戒解雇をされるのではないかと不安になります。

 

 

 

本日は,労働者の私生活における犯罪行為と

懲戒処分について解説します。

 

 

まず,会社は,経営目的を達成するために,

労働者に効率的に働いてもらう必要があり,

職場のルールを定めます。

 

 

この職場のルールに違反して,

労働者が不祥事を起こした場合に,会社は,

労働者に対して制裁を科すことができるのです。

 

 

このように,経営目的を遂行する組織体としての会社が

必要として実施する,労働者に対する統制の全般を企業秩序といい,

企業秩序を維持するための会社のルールに違反したときに

科される制裁が懲戒処分なのです。

 

 

 

次に,職場内で労働者が同僚に暴力を奮ったり,

会社の金銭を横領したような犯罪の場合,会社は,

企業秩序を維持するために,当該労働者に対して

懲戒処分を科すことができます。

 

 

他方,労働者が職場外の私生活において犯罪をした場合,

企業秩序とは無関係であるとして,

企業秩序を維持するための懲戒処分を

科すことができないように考えられます。

 

 

しかし,労働者の職場外における仕事とは無関係の犯罪行為であっても,

会社の企業秩序に直接の関連を有する場合や,

会社の社会的評価の毀損をもたらす場合には,

企業秩序維持のために,懲戒処分を科すことができるのです。

 

 

そして,労働者が職場外の私生活において犯罪をした場合に,

懲戒処分を科すことができるかについては,

当該犯罪行為の性質,情状,会社の事業の種類・態様・規模,

会社の経営方針,労働者の会社における地位や役職

などの事情を総合考慮して判断されます。

 

 

例えば,労働者が深夜に他人の家に侵入して,

住居侵入罪で罰金2,500円を科せられたことについて,

「不正不義の行為を犯し,会社の体面を著しく汚した者」

という懲戒解雇事由にあたるかが争われた,

横浜ゴム事件の最高裁昭和45年7月28日判決

(判例タイムズ252号163頁)があります。

 

 

 

この事件では,罰金2,500円という軽微な刑罰ですんでいること,

労働者の地位が工員であって指導的なものではなかったことから,

会社とは関係のない私生活の中で行なわれた

本件犯罪行為を理由とする懲戒解雇は無効となりました。

 

 

刑罰が重かったり,管理職などの地位にあった場合には,

私生活における犯罪行為であっても,

懲戒解雇が有効になる可能性はあります。

 

 

もっとも,私生活で犯罪行為をしたことを理由とする懲戒解雇ではなく,

警察に捕まって無断欠勤が続いたことを理由に

懲戒解雇されることがあります。

 

 

犯罪をして警察に逮捕されていまうと,逮捕段階で最大3日間,

勾留されてしまうと,10日間,

さらに勾留が延長されると,さらに最大10日間,

警察署の留置施設に身体を拘束されてしまいます。

 

 

ようするに,最大23日間も身体を拘束されてしまうのです。

 

 

23日間も無断欠勤が続けば,勤怠不良ということで,

懲戒解雇されてしまう恐れがあるのです。

 

 

正直,この懲戒解雇を争うのは難しいと思います。

 

 

逮捕勾留されても,懲戒解雇はせずに,

軽微な懲戒処分とした上で,雇用が維持されたり,

懲戒解雇をしない代わりに,自己都合退職を促さたりと,

会社の態様は様々です。

 

 

刑事弁護人の立場からは,犯罪行為をした労働者の更生のために,

会社にはなるべく恩情をかけてもらいたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。