過労死の労災認定基準以外の疾病で労災の認定を受けられるのか
先日,栃木県那須町で開催された過労死弁護団の総会で,
貴重な裁判例の報告がありましたので,アウトプットします。
極端な長時間労働によってウイルス性劇症型心筋炎に
罹患して死亡した労働者に対して,過労死の労災認定が認められた,
国・大阪中央労基署長(La Tortuga)事件の
大阪地裁令和元年5月15日判決(労働判例1203号5頁)です。
この事件では,労働者が,過労死の労災認定基準の対象疾病ではない
ウイルス性心筋炎に罹患したことから,
長時間労働との間に因果関係が認められるのかが争点となりました。
以前,エコノミークラス症候群と過労死について
ブログに記載しましたが,過労死の労災認定基準の対象疾病以外の疾病
に罹患した場合,労災認定のハードルが一気に高くなります。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201909268573.html
過労死の労災認定基準の対象疾病は,
脳内出血・脳梗塞などの脳血管疾患と,
心筋梗塞や心停止などの心疾患です。
これらの脳・心臓疾患は,仕事の過労やストレスによって,
脳や心臓の血管がダメージを受けて発症することが
医学的に裏付けられていることから,対象疾病となっています。
他方,対象疾病以外の疾病については,
仕事による過労と疾病の発症とのメカニズムが
医学的に解明されていないとして,
労働基準監督署の労災認定の手続では,
労災と認定されることはほとんどないのです。
本件事件では,フレンチレストランの調理師が,
1ヶ月250時間もの極端な時間外労働をしており,
1ヶ月80~100時間の時間外労働という過労死ラインの
2倍以上の過酷な労働をしていたのですが,
対象疾病以外の疾病であることを根拠に,
労災認定手続では,労災と認定されなかったのです。
対象疾病以外の疾病で労災と認定してもらうためには,
行政の手続きではなく,裁判手続きにおいて,
当該疾病と業務の過重性との関連性を立証できれば,
労災と認定される道が開けます。
本件事件では,極端な長時間労働による疲労の蓄積によって
自然免疫機能の低下や獲得免疫機能の過剰といった
免疫力の異常が発生して,ウイルスに感染しやすく,
感染症の症状が重篤化しやすくなることについて,
相応の医学的な裏付けがあると判断しました。
そして,平均で1ヶ月250時間の極端な長時間労働による
疲労の著しい蓄積によって,免疫力の著しい異常が生じて,
ウイルス性心筋炎が発症したとして,因果関係が認められたのです。
過労→免疫力低下→ウイルス感染→増悪→劇症化,
という因果の流れが認められたわけです。
疲れたら,風邪をひきやすい,
インフルエンザウイルスに感染してインフルエンザになりやすい
という当たり前のことなのですが,労災の手続きにおいては,
対象疾病以外の疾病という理由で,
この当たり前のことが認められないことがあるのです。
そのため,過労死の対象疾病を見直す必要があると考えます。
この事件を担当された大阪の弁護士の波多野先生から,
対象疾病以外の疾病で労災を勝ち取ることの苦労話をお聞きし,
クライアントのために諦めずに最善を尽くすことの大切さを学びました。
また,ご遺族の奥様が,これほどまでに酷い働き方をさせられて
死亡したのに,たまたま発症したのがウイルス性心筋炎だから
という理由で,過労死と認められないのは納得できないという,
素朴な疑問に基づいて,最後まで諦めずにたたかってきたことに,
心をうたれました。
過労死の対象疾病以外の疾病であっても,
労災と認定される道が開かれた点で,
画期的な判決だと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。