労働事件の解決事例~方便的な解雇の撤回は認められません~

クライアントは,貨物自動車運送業を営む会社

において配車係をしていました。

 

 

ある日突然,クライアントは,社長から解雇通告を受けました。

 

 

 

 

クライアントは,突然の解雇に驚き,

社長に対して,解雇理由を聞きましたが,

社長は,あいまいなことしか言わず,

解雇理由はよく分からないままでした。

 

 

クライアントは,納得がいかず,

まずは労働基準監督署へ相談にいきました。

 

 

労働基準監督署では,会社から解雇通知書と退職証明書

をもらうように,アドバイスを受けました。

 

 

 

 

労働基準監督署のアドバイスに従い,

クライアントは,社長に対して,

解雇通知書と退職証明書の交付を求めたところ,

社長は,行政に言わないのであれば,交付しますと言いました。

 

 

会社から,交付された解雇通知書には,

解雇理由として「会社都合」としか記載されていませんでした。

 

 

会社の解雇理由に納得できないクライアントは,

当事務所へ相談にいらっしゃいました。

 

 

クライアントの話を聞いていると,解雇以外にも,

長時間労働にもかかわらず,

残業代が支払われていないことがわかりました。

 

 

しかし,会社は,タイムカードで労働時間の管理をしていませんでした。

 

 

クライアントは,デスクトップのパソコンで,

配車管理をしていたので,パソコンのログインとログオフ

の時間が分かれば,タイムカードがなくても

労働時間を証明できると考え,まずは,証拠保全を行いました。

 

 

 

 

証拠保全とは,裁判官と一緒に相手方の職場へ訪問し,

証拠を確保する手続きです。

 

 

クライアントが解雇されてから,

2ヶ月ほどしか経っていなかったので,

パソコンのログデータが保存されていると思われたのですが,

証拠保全をしたところ,クライアントが使用していた

パソコンのOSがアップデートされていて,

ログデータが全て消去されていたのです。

 

 

クライアントが働いていた期間のログデータを

入手することができなかったのですが,クライアントは,

解雇前3ヶ月間の土日のパソコンのログデータを

スマートフォンのカメラで撮影して保存していたので,

そのログデータをもとに,平均の労働時間を算出して,

残業代を計算しました。

 

 

そして,会社には,タイムカード等で労働時間の管理をする

労働時間把握義務があるのですが,相手方は,

それを怠っているので,平均の労働時間で

残業代が認められるべきだという主張をしました。

 

 

また,相手方に対して,解雇が無効であることを

内容証明郵便で通知したところ,相手方は,

あっさりと解雇を撤回して,職場に復帰するように求めてきました。

 

 

しかし,相手方の主張する職場復帰の条件が,

クライアントを配車係から一般事務へ配置転換して,

給料を解雇前から約8万円減額させるというもので,

到底クライアントが受け入れられる条件ではありませんでした。

 

 

そこで,相手方の方便的な解雇撤回は認められず,

解雇によって破壊された信頼関係が回復していないことを理由に,

相手方が解雇を撤回しても,クライアントは,

未払い賃金を請求できると主張しました。

 

 

結果として,労働審判の第1回期日で調停が成立し,

相手方から,約1年分の給料に相当する解決金

を支払ってもらうことで解決しました。

 

 

 

 

最近,会社は,解雇が無効になる可能性があると,

方便的に解雇を撤回して,復職を求めてくることがありますが,

信頼関係が回復されていないのであれば,

復職しなくても,未払い賃金を請求できるときがあります。

 

 

また,タイムカードがなくても,

あきらめずに証拠を探し出すことで,

未払い残業代が認められることがあります。

 

 

労働者にとって不利な状況であっても,

あきらめずに対応した結果,

労働者が納得できる解決が実現した事例として紹介します。

高プロの対象業務とは?

厚生労働省が,10月31日に,

高度プロフェッショナル制度(「高プロ」といいます)

の具体的な対象業務の素案を公表しました。

 

 

高プロが適用される労働者は,

労働基準法で定められている労働時間の規制が

適用されなくなる結果,どれだけ働いても残業代がゼロになります。

 

 

 

 

そのため,働き方改革関連法の中で,

「残業代ゼロ法案」,「過労死促進法案」などと

度重なる批判をされながらも,成立してしまった残念な制度です。

 

 

働き方改革関連法では,高プロの対象となる業務として,

高度の専門的知識等を必要とし,その性質上

従事した時間と従事して得た成果との関連性が

通常高くないと認められる業務」と定められました。

 

 

しかし,この法律の文言を見ても,

どのような業務が高プロの対象になるのかが,

さっぱり分かりません。

 

 

 

 

法律の文言が抽象的ですと,拡大解釈されるおそれがあり,

対象となる業務が今後拡大していく可能性があります。

 

 

さらに,対象業務を法律ではなく,

省令で決めることになるので,国会審議を経ずに,

厚生労働省が国民の監視が届かないところで

決めてしまうおそれもあります。

 

 

このように,高プロは欠陥だらけなのですが,

ようやく具体的な対象業務が明らかになりました。

 

 

高プロの対象業務は,次の5つです。

 

 

①金融商品の開発業務

 ②金融商品のディーリング業務

 ③アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)

 ④コンサルタントの業務

(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)

 ⑤研究開発業務

 

 

この5つの業務であっても,

対象になりえる業務と対象にならない業務

の具体例も公表されました。

 

 

①金融商品の開発業務では,

金融工学や統計学の知識を用いた

新たな金融商品の開発業務は対象になりえて,

金融サービスの企画立案や

データの入力・整理の業務は対象にならないとされました。

 

 

②金融商品のディーリング業務では,

資産運用会社のファンドマネージャーやトレーダーの業務,

自社の資金で株式や債券の売買をする業務は対象になりえて,

投資判断を伴わない顧客からの注文の取次や

金融機関の窓口業務は対象にならないとされました。

 

 

 

 

③アナリストの業務では,

運用担当者に対し有価証券の投資に関する

助言を行う業務は対象になりえて,

一定の時間を設定して行う相談業務や

分析のためのデータ入力・整理を行う業務は

対象にならないとされました。

 

 

④コンサルタントの業務では,

業務改革案などを提案してその実現に向けて

アドバイスや支援をしていく業務は対象になりえて,

個人顧客を対象とする助言の業務は

対象にならないとされました。

 

 

⑤研究開発業務では,

新型モデル・サービスの開発の業務は対象になりえて,

既存の商品やサービスにとどまり,

技術的改善を伴わない業務は対象にならないとされました。

 

 

 

 

ある程度,対象業務が具体的になりましたが,

それでも,あいまいな点が残っています。

 

 

一般的には5つの業務の範疇に入っていても,

会社から労働時間に関する具体的な指示がされていれば

対象業務になりませんし,単純な作業も対象業務になりません。

 

 

高プロが導入されそうな場合には,

自分の仕事が5つの対象業務に含まれるのかを

注意深く検討する必要があります。

 

 

高プロの対象業務をなるべく狭くして,

高プロによって過労死する労働者がでないようにしたいものです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。