解雇と専門業務型裁量労働制の適用を争い,解雇撤回と未払残業代600万円を勝ち取った事件

クライアントは,テレビ番組やコマーシャルの企画制作,結婚式における映像を制作する会社の課長として働いていましたが,会社から「業務上の指示,命令にしばしば従わず,チームワークを乱すなど組織不適応と認められるため。」という理由で解雇されました。

 

クライアントの話を聞くに,クライアントは,社長や上司の指示に従っており,組織不適応とはいえないことから,解雇を争うことにしました。また,クライアントは,長時間労働していたのですが,裁量労働手当として毎月23,000円の支払を受けていただけで,適法に残業代が支払われていなかったことから,未払残業代を計算して,合計約716万円の未払残業代を請求しました。

 

裁判では,被告会社は,クライアントが放送番組の制作におけるプロデューサーであると主張して,クライアントには,専門業務型裁量労働制が適用されるとして争ってきました。

 

しかし,クライアントが行っていた仕事は,結婚式場への営業と結婚式当日における映像の撮影・編集等であり,クライアントは,プロデューサーではないと主張しました。

 

また,専門業務型裁量労働制の要件として,「対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し,当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと」という要件がありますが,クライアントの上司は,クライアントに対し,新規の営業や報告書の提出を求めるといった具体的な指示をしていたので,この要件を満たしていませんでした。

 

さらに,専門業務型裁量労働制の労使協定を締結するには,労使協定を締結する労働者の過半数代表を投票や挙手で選出しなければなりませんが,被告会社では,労働者の過半数代表を選出する手続が何も実施されていませんでした。

 

このように,被告会社の専門業務型裁量労働制は労働基準法の要件を満たしていないため,クライアントには専門業務型裁量労働制が適用されず,クライアントの未払残業代請求が認められることになり,最終的には,被告会社がクライアントに対して600万円の未払残業代を支払い,さらに,被告会社の解雇を撤回させて,和解が成立しました。

 

専門業務型裁量労働制は,労働基準法の要件が厳しく,適法に専門業務型裁量労働制を運用している会社は少ないと考えられます。裁量労働だからという理由で,会社から残業代が支払われていない場合,未払残業代が請求できる可能性がありますので,弁護士へ一度ご相談することをおすすめします。

会社の懇親会後の交通事故は労災になるのか?

会社の歓送迎会に参加した後の送迎中に交通事故にあった労働者について,労災が認められた最高裁判例を紹介します(最高裁平成28年7月8日判決・行橋労基署長(テイクロ九州)事件・労働判例1145号6頁)。

 

被災労働者は,部長から,中国人研修生の歓送迎会に参加するよう言われましたが,翌日までに提出しなければならない資料作成があるため,一度は,歓送迎会に参加することを断りましたが,部長から,「今日が最後だから,顔を出せるなら,出してくれないか。」と説得されて,参加することになりました。

 

被災労働者は,資料作成を一時中断して,会社の車に乗って,歓送迎会に参加し,アルコール飲料は飲まずに,飲食をしました。被災労働者は,酩酊している中国人研修生をアパートに送迎してから,会社に戻るために運転していたところ,交通事故にあい,死亡しました。

 

被災労働者の遺族が,遺族補償給付の請求をしましたが,不支給の決定を受けたので,不支給決定の取消を求めて,提訴しました。1審と2審では,労災とは認められず,遺族が敗訴しましたが,最高裁で逆転勝訴となり,労災と認められました。

 

最高裁は,次の事実をもとに,労災と認めました。まず,被災労働者は,部長から歓送迎会に参加してほしいと強く求められたため,歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況となり,歓送迎会終了後に会社に戻ることを余儀なくされました。

 

次に,本件歓送迎会は,研修の目的を達成するために会社で企画された行事の一環であり,会社の事業活動に密接に関連して行われたものでした。

 

これらのことから,交通事故の際,被災労働者は,会社の支配下にある状態であったと認定されて,労災と認められました。

 

通常,歓送迎会が会社外で行われて,アルコール飲料が提供されていれば,歓送迎会後の交通事故は,労災と認められにくいのですが,本件は,上司から歓送迎会への参加を強引に誘われて断れず,歓送迎会後に仕事に戻らなければならなかった事情を考慮して,労災と認められた貴重な判例です。

 

懇親会参加後の交通事故であっても,懇親会参加への強制や,懇親会後に仕事を再開することが予定されていたことを立証することで労災と認定される場合がありますので,労災に詳しい弁護士へご相談することをおすすめします。

 

労災でお困りの方は,金沢合同法律事務所へご相談ください。

 

高度プロフェッショナル制度の危険性

平成30年4月6日,働き方改革関連法案が閣議決定されて,国会に提出されました。今後,国会で,働き方改革関連法案が審議されていきます。

 

この働き方改革関連法案の中で一番問題なのは,高度プロフェッショナル制度,通称高プロと呼ばれるものです。高プロとは,年収が一定以上の労働者の労働時間規制を除外するものです。簡単に言うなら,高プロが適用される労働者は,どれだけ働いても,残業代がゼロになってしまいます。そのため,高プロは,残業代ゼロ法案として,批判されています。

 

なぜ高プロがこれほど批判されているのかといいますと,長時間労働を原因とする過労死や過労自殺が後を絶たず,長時間労働の規制が叫ばれている中,労働時間の規制を撤廃すれば,より長時間労働が助長されて,過労死や過労自殺が蔓延する危険性があるからです。

 

高プロでは,上司がノルマを課したり,仕事の仕方を指示することが可能なので,仕事の量の決定権がない労働者は,際限のないノルマを課せられて,より過酷な長時間労働に陥ってしまう危険があります。

 

高プロは,今のところ,金融商品の開発,ディーリング業務,アナリスト,コンサルタント,研究開発業務の5種類で,年収1075万円以上の労働者が対象とされています。

 

しかし,これらの5種類の対象業務は,厚生労働省令で定められるので,国会の議論を経ずに,拡大される危険があります。また,年収要件も,1075万円以上から,段階的に引き下げられて,対象労働者が拡大する危険もあります。

 

高プロが適用されて,得をする労働者はいないと思いますので,労働者の方々には,高プロに反対してもらいたいです。

 

なお,高プロの問題点については,日本労働弁護団の解説パンフレット(http://roudou-bengodan.org/topics/5055/)に,分かりやすい説明が掲載されていますので,ぜひ参考にしてみてください。

 

また,今回のブログは,朝日新聞に掲載されていた南山大学法学部の緒方桂子教授のインタビュー記事を参考にさせていただきました。

上司の言動が配転命令と一体となってパワハラになり,慰謝料が認められた事件

上司の言動が,配転命令と一体として考えれば,不法行為に該当し,原告労働者に対して,慰謝料100万円が認められたパワハラの事件を紹介します(東京高裁平成29年4月26日判決・ホンダ開発事件・労働判例1170号・53頁)。

 

原告労働者は,大学院を卒業後,被告会社に就職し,総務課に配属されましたが,ミスが続き,担当をはずされました。原告労働者は,個人面談の際に,上司から,「あなたのやっていることは仕事ではなく,考えなくても出来る作業だ。」と言われました。

 

また,会社の懇親会の二次会の席で,原告労働者は,上司から,「多くの人がお前をバカにしている。」と言われました。その後,原告労働者は,ミスや処理の遅れがあったり,他部門からクレームを受けたりしました。

 

原告労働者は,しばらくしてランドリー班に配置転換となりました。ランドリー班とは,クリーニング機械の操作や洗濯物の運搬,事務的な業務を行う部署であり,これまでの原告労働者の業務とは全く関係のない部署でした。

 

原告労働者は,上司の言動により,精神的苦痛を受けた上,合理的な理由なく,不当な動機・目的によってランドリー班に配置転換させられたと主張して,損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

判決では,ランドリー班への配置転換は,ランドリー班の業務量の増大と人員補充の必要性から有効とされました。もっとも,大学院卒業後に採用された新入社員である原告労働者に対する上司の言動は,配慮を欠き,原告労働者に屈辱感を与えるものであり,これらの言動と,総務係からそれまでの業務と関係がなく周囲から問題のある人とみられるようなランドリー班に配置転換させられたことは一体として考えれば,原告労働者に対し,通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を課すといえ,不法行為に該当すると判断されて,100万円の慰謝料が認められました。

 

上司の言動だけではなく,これまでの業務と関係なく,あきらかに労働者を窓際に追いやるような配置転換とを一体と評価して,違法なパワハラであると判断した点に本判決の特徴があります。パワハラを争う場合には,不当な配置転換がなかったかを検討することが必要です。

 

パワハラでお悩みの労働者は,金沢合同法律事務所へご相談ください。