郵政グループにおける同一労働同一賃金の問題点

郵政グループは,転居を伴う転勤がない正社員に対して,これまで住居手当を支給しており,非正規社員には,住居手当を支給していませんでしたが,この住居手当を廃止することに決めました。

 

https://www.asahi.com/articles/ASL4C3SMJL4CULFA00B.html

 

郵政グループは,東京と大阪で,各種手当の格差是正について,裁判が行われており,同一労働同一賃金の機運が高まっていることから,住居手当を削減することで,正社員と非正規社員との待遇格差を縮めようとしているようです。しかし,住居手当が廃止されることによって,正社員の年収が最大で32万4000円も減額されることになるようです。

 

もともと,同一労働同一賃金は,非正規社員の労働条件を改善して,非正規社員と正社員の労働条件の格差を縮小することを狙いとしていますが,正社員の労働条件を引き下げて,正社員を非正規社員の低い労働条件に合わせるのでは,労働者全体の賃金が下がり,消費意欲が衰えて,商品が売れなくなり,会社の業績が悪化して,景気が悪化するリスクがあります。

 

同一労働同一賃金を名目に,正社員の労働条件を切り下げるのでは,正社員と非正規社員の分断をますます助長することになるので,同一労働同一賃金を実現するのであれば,人件費の問題はありますが,非正規社員の労働条件を正社員の労働条件の水準にまで,徐々に向上させていく必要があります。

 

労働者全体の労働条件を向上させていくためにも,郵政グループの住居手当廃止が悪しき前例にならないことを願います。

解雇と専門業務型裁量労働制の適用を争い,解雇撤回と未払残業代600万円を勝ち取った事件

クライアントは,テレビ番組やコマーシャルの企画制作,結婚式における映像を制作する会社の課長として働いていましたが,会社から「業務上の指示,命令にしばしば従わず,チームワークを乱すなど組織不適応と認められるため。」という理由で解雇されました。

 

クライアントの話を聞くに,クライアントは,社長や上司の指示に従っており,組織不適応とはいえないことから,解雇を争うことにしました。また,クライアントは,長時間労働していたのですが,裁量労働手当として毎月23,000円の支払を受けていただけで,適法に残業代が支払われていなかったことから,未払残業代を計算して,合計約716万円の未払残業代を請求しました。

 

裁判では,被告会社は,クライアントが放送番組の制作におけるプロデューサーであると主張して,クライアントには,専門業務型裁量労働制が適用されるとして争ってきました。

 

しかし,クライアントが行っていた仕事は,結婚式場への営業と結婚式当日における映像の撮影・編集等であり,クライアントは,プロデューサーではないと主張しました。

 

また,専門業務型裁量労働制の要件として,「対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し,当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと」という要件がありますが,クライアントの上司は,クライアントに対し,新規の営業や報告書の提出を求めるといった具体的な指示をしていたので,この要件を満たしていませんでした。

 

さらに,専門業務型裁量労働制の労使協定を締結するには,労使協定を締結する労働者の過半数代表を投票や挙手で選出しなければなりませんが,被告会社では,労働者の過半数代表を選出する手続が何も実施されていませんでした。

 

このように,被告会社の専門業務型裁量労働制は労働基準法の要件を満たしていないため,クライアントには専門業務型裁量労働制が適用されず,クライアントの未払残業代請求が認められることになり,最終的には,被告会社がクライアントに対して600万円の未払残業代を支払い,さらに,被告会社の解雇を撤回させて,和解が成立しました。

 

専門業務型裁量労働制は,労働基準法の要件が厳しく,適法に専門業務型裁量労働制を運用している会社は少ないと考えられます。裁量労働だからという理由で,会社から残業代が支払われていない場合,未払残業代が請求できる可能性がありますので,弁護士へ一度ご相談することをおすすめします。