働き方改革関連法案

 厚生労働省は,平成29年9月8日,労働政策審議会の分科会で働き方改革関連法案の要綱を示したようです。残業の上限規制と高度プロフェッショナル制度を一本化した法案が臨時国会に提出されそうです。

 

 残業の上限規制は,会社に対して,これ以上労働者に残業をさせてはいけないと罰則付で規制するするものです。これまでは,36協定を締結すれば,残業時間の上限がなかったので,国立循環器病研究センターのように300時間の残業を許容することも可能でした。残業時間の上限が設定され,それに違反した場合には刑罰が科せられることになれば,会社は,労働者に対して,残業を抑制するようにはたらきかけるようになり,長時間労働が是正されることが期待されます。労働者保護のための立法です。

 

 一方,高度プロフェッショナル制度については,これまで何度かブログで記載してきましたが,一定の要件を満たす労働者に対しては,どれだけ残業をしても,残業代が支払われなくなる,いわゆる残業代ゼロ法案です。高度プロフェッショナル制度が適用されると,過労死ラインを超えて働かされても残業代は1円も支払われず,長時間労働を助長するおそれがあります。労働者にとってマイナスの法案です。

 

 このように,労働時間を規制する残業の上限規制と,労働時間の規制を撤廃する高度プロフェッショナル制度は矛盾していると思います。これを一本化しても,ちぐはぐな法体系になり,かえって分かりくくなります。残業の上限規制は立法化し,高度プロフェッショナル制度は廃案にすべきです。今後の国会での与野党の攻防を見守る必要があります。

 

労働問題の法律相談は,労働問題を専門に扱う弁護士法人金沢合同法律事務所へ,お気軽にお問い合わせください。

http://www.kanazawagoudoulaw.com/

http://www.kanazawagoudoulaw.com/roudou_lp/

 

1ヶ月300時間の残業を認める36協定

 朝日新聞の報道によれば,大阪府吹田市にある国立循環器病研究センターにおいて,勤務医や看護職員の残業を1ヶ月300時間まで可能にする36協定が締結されていたようです。

 

 労働基準法32条で,会社は,労働者に対して,休憩時間を除いて1日8時間を超えて働かせてはならないのが原則ですが,36協定が締結されれば,例外的に8時間を超えて働かせることができるようになります。そして,36協定には,残業させる場合の延長時間を定めなければなりません。

 

 他方,過労死の労災認定基準では,脳・心臓疾患の発症前1ヶ月間におおむね100時間の残業が認められる,または,発症前2ヶ月から6ヶ月にわたって,1ヶ月当たりおおむね80時間を超える残業が認められると,原則として労災と認定されます。

 

 今回の国立循環器病研究センターの36協定は,この過労死基準の3倍の残業を容認する内容となっており,極めて問題です。医師や看護師は,外来や手術,宿直等,高度の集中力を要する仕事を長時間かつ不規則勤務で対応しなければならず,とても過酷な仕事だと思います。さらに,医師・看護師が不足しているようで,医療現場の負担は増しているようです。医師・看護師が長時間労働によって,疲労が蓄積すれば,仕事のパフォーマンスが落ち,重大な医療事故が起きる危険性が高まります。

 

 医療現場の長時間労働対策を早急に行う必要があります。そのためにも,36協定を見直して,残業の上限を過労死基準よりも下に設定するべきだと考えます。

 

 労働問題の法律相談は,労働問題を専門に扱う弁護士法人金沢合同法律事務所へ,お気軽にお問い合わせください。

http://www.kanazawagoudoulaw.com/

http://www.kanazawagoudoulaw.com/roudou_lp/

 

公務員の定年延長

 政府は,国家公務員及び地方公務員あわせて約330万人の定年を現行の60歳から65歳へ段階的に延長する方向で検討に入ったようです。少子高齢化が進行して労働力人口が減少していく中,働ける人材を確保する必要があること,また,年金支給年齢が引き上げられたため,60歳で退職して無職になっても年金収入がなく,生活が成り立たなくなることが背景にあります。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXKASFS14H15_31082017MM8000/

 

 民間企業の場合,高年齢者の雇用の安定等に関する法律(高年法)で,60歳を下回る定年制を儲けることができず,65歳までの雇用確保措置を講じなければならないとされています。そして,この雇用確保措置は,①定年年齢の引上げ,②高年齢者が希望するときは定年後も引き続いて雇用する制度の導入,③定年制度の廃止のいずれかとなります。

 

 このように民間企業の場合は,定年が65歳までに延長されているか,定年後希望すれば継続して働くことができます。他方,公務員の場合は,未だに定年が60歳と決まっていて,定年後に希望しても必ずしも同じ職場に継続して働けるとは限らないようです。

 

 民間企業では当たり前になっていることが公務員の世界では当たり前になっていないのです。そういう意味では,公務員の労働状況は,民間企業の労働状況よりも悪い気がします。今後は70歳まで働くのが当たり前になっていくでしょうから,雇用継続を希望する公務員のためにも,定年延長が早急に実現されることを希望しています。

 

教員の労働時間把握

 平成29年8月30日の朝日新聞の報道によると,文部科学省の諮問機関中央教育審議会の特別部会が,学校現場での働き方改革について提言したようです。その提言の中に,教員に対するタイムカードや情報技術を使った出退勤時刻の記録をすることを盛り込んだようです。

 

 2016年度の文部科学省の調査では,教員の退勤時刻をタイムカードや校内システムで記録していたのは,小中学校とも3割未満であったようです。教員には,労働基準法の残業代が支払われないために,労働時間の管理が疎かになっていたのかもしれません。

 

 しかし,労働時間の管理を疎かにすれば,管理職は,部下の教員がどれだけの時間働いていたのか正確に把握できず,教員が長時間労働で疲労が蓄積していることを見過ごし,教員が脳心臓疾患や精神疾患に罹患するリスクを増大させる可能性があります。民間企業では当たり前になっている労働時間の把握が,学校現場では杜撰になされていることに驚きました。

 

 教員は,朝の出勤が早い上に,部活動の指導,保護者対応,授業の準備等で多忙を極めています。早急に教員の労働時間の把握を徹底させて,管理職は,部下の教員の労働時間が適正になるように対応すべきだと思います。

 

 提言によれば,部活動については,外部の指導員にアウトソーシングする等の案が提示されたそうです。少しでも教員の長時間労働が是正されるような対策が実現されることを願っています。