女性事務員パワハラ退職強要事件
心電図やAED等の医療機器を製造・販売する会社において,新しい代表取締役が就任し,その新しい代表取締役が4人しかいない女性事務員全員にパワハラを行い,退職届を提出せざるをえないところまで追い込まれたというパワハラ事件を紹介します(平成29年5月17日長野地裁松本支部判決)。
新しい代表取締役は,自分が就任する前の人事について,「私ができないと思ったら降格してもらいます。」と述べました。この発言は,根拠もなく原告らの能力を低くみるものと認定されました。
「人間,歳をとると性格も考え方も変わらない。」との発言は,年齢のみによって原告の能力を低くみるものと認定されました。
「自分の改革に抵抗する抵抗勢力は異動願を出せ。50代はもう性格も考え方も変わらないから。」との発言は,50代の者を代表取締役に刃向かう者としており,年齢のみによって原告らの勤務態度を低くみるものであると認定されました。
「自分の夫と比べて給料が高いと思わないのか。」との発言は,原告らが給料に見合った仕事をしていないと根拠なく決めつけるものであると認定されました。
パワハラの事件では,どのような発言であれば,違法と認定されるのか,その線引が難しい場合があります。常識的に考えて,それを言ったらだめでしょうというレベルの発言であれば,違法になりやすいですが,グレーな発言も多々あり,労働相談をしていて悩むことがよくあります。本件では,発言自体はグレーな気がしますが,執拗に退職強要をしていたことや,新しい代表取締役が原告らの仕事内容を理解しないまま発言していたこと等の事情から,違法なパワハラと認定したようです。
もっとも,慰謝料の認容額は,パワハラの期間が長いとまではいえない等の理由で,原告4人のうち,1名が22万円,1名が110万円,2名が5万5000円と低い金額となりました。パワハラ事件は,慰謝料があまり高額にならない傾向があるので,提訴まで踏み切れないことも多く,この点もパワハラの相談を受けていて悩ましい点であります。