管理職は残業代をもらえないのか?【弁護士が解説】
1 管理職は残業代がゼロなの?
Q:会社である部門の部長をしています。会社からは、部長になったら、残業代はでないと説明を受けましたが、給料がそれほど高いわけではないので、納得がいきません。部長になると、残業代は支払われないものなのでしょうか。
A:労働基準法の「管理監督者」に該当しないならば、部長などの管理職であっても、会社に対して、残業代を請求することができます。
今回は、労働基準法の管理監督者について、
①残業代を請求するには
②管理監督者とは
③管理監督者3つの判断基準
という順番で、分かりやすく解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
2 残業代を請求するにはどうすればいい?
まずは、①未払残業代を請求する方法について解説します。
労働者が会社に対して、未払残業代を請求するためには、労働者が労働日に、何時から何時まで働いたのかを、証拠に基づいて証明しなければなりません。
そのため、未払残業代請求事件では、労働時間を証明できる証拠を、いかに確保できるかが重要になります。
労働時間を証明できる証拠としては、タイムカード、パソコンのログデータ、入退館記録、日報、スマホのGPS機能等が、実務でよく利用されます。
これらの証拠をどうやって集めるかを検討することから始めます。
会社を退職した後は、これらの労働時間を証明できる証拠を集めることが難しくなるので、できるならば、在職中に証拠を集めることをおすすめします。
具体的には、タイムカードをコピーする、パソコンのログデータを保存する、スマホのGPS機能で労働時間を記録するといったことを、在職中にしておくのがいいです。
そして、労働時間を証明できる証拠を確保したならば、弁護士に相談して、残業代を計算してもらい、残業代を請求するかを検討します。
残業代の計算は複雑なので、弁護士に残業代の計算を依頼することをおすすめします。
さらに、未払残業代の時効は3年ですので、なるべく多くの残業代を請求するためには、早目に時効をとめる必要があります。
例えば、2023年9月に残業代を請求する場合、2020年9月から2023年9月までの3年間分の未払残業代を請求できます。
3年間分の未払残業代を請求すると、けっこう高額な残業代になることがあります。
もっとも、2023年9月から、2023年10月になれば、3年前の2020年9月の残業代が時効で消滅します。
このように、残業代は、翌月になると、3年前のものが時効で消滅するので、時効をとめるために、「~から~までの未払残業代を含む全ての未払賃金を請求します」と記載した請求書を、特定記録郵便で会社に送付します。
この請求書が会社に届いてから、6ヶ月以内に、会社に対して、未払残業代請求の訴訟を提起する、若しくは、労働審判の申立てをすれば、時効は、完全にとまります。
まとめますと、①労働時間を証明できる証拠を確保して、②残業代を計算して、③会社に残業代の請求書を送付します。
3 管理監督者とはどんな人?
次に、②管理監督者について解説します。
労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」に該当すれば、労働基準法の残業代の規定が適用されなくなります。
すなわち、労働基準法の管理監督者に該当すれば、残業代は0円になるのです。
なぜこのような規定ができたのかといいますと、経営者と一体的な立場で、労働時間に関する規制の枠を超えて活動しなければならない企業経営上の必要から、管理監督者には、労働基準法の残業代の規定の適用が除外されているのです。
ようするに、労働者ではない、経営者と同じような立場であれば、待遇もよく、労働基準法の労働時間の規制になじまないので、残業代を支払わなくても、問題ないとされているのです。
このような条文の趣旨から、管理監督者とは、労働条件その他労務管理について、経営者と一体的な立場にある者と定義されます。
言い換えれば、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者をいいます。
そのため、管理監督者の判断にあたっては、資格や役職の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があり、管理監督者の地位にふさわしい待遇がされているかについて検討します。
4 管理監督者の3つの判断基準
最後に、③管理監督者3つの判断基準について解説します。
判断基準の1つ目は、経営者との一体性です。
これは、事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していることです。
この判断基準は、次の3つの事情を総合考慮します。
①経営への参画状況
会社の経営会議等の事業運営に関する決定過程に関与し、どの程度の発言力・影響力を有していたかを検討します。
例えば、経営トップの一存で経営方針が決められており、当該管理監督者とされている人が、経営方針の決定にほとんど影響力がない場合には、管理監督者とはいえません。
②労務管理上の指揮監督権
部下に関する採用、解雇、人事考課等の人事権限、部下らの勤務割等の決定権限の有無・内容について検討します。
当該管理監督者とされている人が、単に採用面接を担当しただけで、人事の意見を述べる機会が与えられるだけであれば、管理監督者とはいえません。
③実際の職務内容
マネージャー業務のみならず、部下と同様の現場作業・業務にも相当程度従事しているかを検討します。
ようするに、一般社員と同じ業務をたくさんしている場合には、管理監督者とはいえなくなるのです。
判断基準の2つ目は、労働時間の裁量です。
これは、自己の労働時間についての裁量を有していることです。
すなわち、労働時間がどの程度厳格に取り決められ、管理されていたのかを検討します。
例えば、タイムカード等で出退勤の管理がされていたか、遅刻・早退・欠勤の場合に賃金が控除されていたかといったことを検討します。
判断基準の3つ目は、賃金等の待遇です。
これは、管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていることです。
すなわち、労働時間の枠組みに縛られずに勤務しても、保護に欠けることのない待遇面での手当てが必要になります。
具体的には、一般社員との間に有意な待遇差があるか、賃金センサスの平均賃金との比較から、十分な待遇を得ていたと評価できるかを検討します。
以上解説した、管理監督者の判断基準について、裁判所は厳格に判断する傾向にあるため、管理職であっても、未払残業代請求が認められることはよくあります。
そのため、管理職であっても、未払残業代請求をあきらめずに、弁護士に法律相談をすることをおすすめします。
弁護士は、未払残業代請求について、適切なアドバイスをしてくれます。
また、未払残業代請求を含む労働問題について、You Tubeでも解説していますので、You Tubeもご覧ください。
https://www.youtube.com/channel/UCWJQX9xTgXZegEOHZUidsdw
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。