約30年間有期労働契約を更新してきた契約社員に対する無期転換直前の雇止めが無効になった事例~博報堂雇止め事件~

1 博報堂雇止め事件

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大によって、

雇用に大きな悪影響が生じています。

 

 

 

厚生労働省が公表している、全国の解雇等見込み労働者数は、

2021年1月8日時点で、80,836人となっており、

ついに8万人を超えました。

 

 

雇用情勢が悪化すると、契約社員、派遣社員、嘱託社員といった、

非正規雇用労働者から先に切られていくのが現状です。

 

 

とはいえ、非正規雇用労働者についても、勝っている裁判例はあります。

 

 

本日は、昨年注目された博報堂(雇止め)事件の

福岡地裁令和2年3月17日判決(労働判例1226号23頁)を紹介します。

 

 

この事件は、1年ごとの有期労働契約を約30年間、29回にわたって、

更新・継続されてきた契約社員が、

労働契約法の無期転換ルールの施行を契機とする雇止めが無効であると争いました。

 

 

平成25年までは、毎年4月1日に、

形式的に有期労働契約書に署名押印するだけでしたが、平成25年からは、

平成30年3月31日以降は有期労働契約を更新しないとする、

不更新条項が盛り込まれ、更新する際に面談が実施されるようになりました。

 

 

労働契約法18条では、有期労働契約が通算して5年を超えた場合に、

労働者が会社に対して、無期転換の申し込みをしたら、

有期労働契約から無期労働契約に転換することが定められています。

 

 

ようするに、5年経ったら契約社員から正社員に転換されるのです。

 

 

 

会社は、無期転換されたくないので、本件事件のように、5年を超える、

有期労働契約の更新はしないという不更新条項を盛り込んでいることがあります。

 

 

本件事件では、最初から不更新条項が盛り込まれていたのではなく、

有期労働契約が何回も更新されていて、

途中から不更新条項が盛り込まれたわけです。

 

 

2 労働契約は終了したか

 

 

まず、原告の契約社員が平成25年に、

平成30年以降に更新しないことに合意したので、

平成30年で有期労働契約が終了したかが争点になりました。

 

 

この争点について、裁判所は、約30年も有期労働契約を更新してきた

原告にとって、被告との有期労働契約を終了させることは、

生活面や社会的立場に大きな変化をもたらし、

負担もすくなくないことから、有期労働契約を終了させる合意については、

原告の明確な意思が必要であるとしました。

 

 

そして、原告は、不更新条項の盛り込まれた有期労働契約書に署名押印しましたが、

署名押印を拒否すると、更新できないことになるので、署名押印したからといって、

原告が有期労働契約を終了させる明確な意思があっとはいえないとされました。

 

3 雇止めは有効か

 

 

次に、原告に対する雇止めが有効かが争点となりました。

 

 

雇止めについては、有期労働契約が更新されるものと期待することについて

合理的な理由があり、雇止めが客観的合理的理由を欠き、

社会通念上相当でなければ無効となります。

 

 

本件事件では、原告は、昭和63年から平成25年まで

形式的に契約更新を繰り返していたので、

平成25年の時点で契約更新に対する期待は相当に高いと判断されました。

 

 

また、被告では、6年目以降でも、

業務実績に基づいて更新の有無を判断するという条項があるので、

原告の更新に対する期待については、合理的な理由があるとされました。

 

 

そして、被告が主張している、人件費の削減や業務効率の見直しという

一般的な理由では、本件の雇止めについて合理的な理由はないとされ、

雇止めが無効となりました。

 

 

有期労働契約の最初から不更新条項が盛り込まれていた場合には、

雇止めを争うのは困難ですが、何回か更新されていた途中で、

不更新条項が盛り込まれた場合には、雇止めを争う余地があります。

 

 

労働者に有利な裁判例として、紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうごいます。