労災事故による怪我の治療が終了した後の解雇が許されるのか

1 仕事中の怪我の治療終了後の解雇の有効性

 

 

仕事中にけがをしてしまい、治療を続けたものの、

もとの仕事ができるまでには回復できないことがあります。

 

 

このようなときに、会社は、精神または身体の障害により、

業務に耐えられないとして、労働者を解雇することがあります。

 

 

このような解雇は有効なのでしょうか。

 

 

治療が終了して1ヶ月後の解雇の効力が争われた

東京キタイチ事件の札幌高裁令和2年4月15日判決

(労働判例1226号5頁)を紹介します。

 

 

この事件では、原告の労働者は、仕事中に右の小指を負傷し、

何度か手術をしました。

 

 

 

負傷前の原告の仕事は、冷たいタラコをパック詰めするというものであり、

何度も手を入念に洗い、包丁を使うなど、

負傷した右の小指に負担がかかるものでした。

 

 

もっとも、負傷した右の小指に無理をかけないように注意をはらえば、

慣れた仕事は可能であり、仕事量を減らすなどの配慮をすればよい

との主治医の意見がありました。

 

 

被告の会社は、原告に対して、製造部から清掃部への配置転換を打診しましたが、

原告は、製造部での復職を求めました。

 

 

しかし、治療終了後1ヶ月後に解雇を通告されました。

 

 

原告は、解雇が無効であるとして、労働者としての地位の確認と、

未払賃金を請求する裁判を起こしました。

 

 

2 慣らし勤務をさせる必要がある

 

 

裁判所は、しばらくの間業務軽減を行うなどすれば、

原告が製造部へ復職することが可能であったと判断しました。

 

 

そして、本件事故が労災と認定されていることから、

慣らし勤務が必要であることを理由として、

解雇することはできないとしました。

 

 

プライベートな活動で負傷したならまだしも、

仕事中の活動で負傷した場合に、慣らし勤務を経ることで、

もともとの仕事ができる可能性があることを考慮しないことは、

労働者にとって酷であるという価値判断が背景にあると考えられます。

 

 

また、会社は、製造部から清掃部への配置転換を拒否すれば、

解雇がありえることや、製造部での仕事ができない理由を原告に説明しておらず、

原告は、解雇を回避する選択の機会が与えられていませんでした。

 

 

そのため、解雇の手続における、会社の説明が不十分であり、

会社は解雇回避の努力をしていないと判断されました。

 

 

 

解雇の過程を検討することも重要です。

 

 

その結果、解雇は無効となりました。

 

 

労災事故による怪我の影響で、すぐにはもとの仕事に復帰できなくても、

比較的短期間で復職が可能な場合には、会社は、

短期間の復帰準備時間を提供すべきであり、

それをしないでした解雇は無効になる傾向があります。

 

 

仕事中にけがをして、すぐにもとの仕事ができなくても、

慣らし勤務をすれば、もとの仕事ができる見込みがあるのであれば、

慣らし勤務をさせないで解雇することは無効になるわけです。

 

 

労災事故の治療後に解雇された場合、なっとくがいかないのであれば、

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございます。

図解でわかる妻の取扱説明書

1 妻の言動がわからなくて悩んでいる夫は多い

 

 

結婚した経験のある男性であれば、なぜ、妻はこのような言動をするのか、

という疑問にぶつかることがあるはずです。

 

 

この疑問をうやむやなままにしておくと、妻は、不機嫌になり、

夫婦関係が悪化するリスクがあります。

 

 

とはいえ、この問に対する答えは、妻からはわかりません。

 

 

妻自身が、なぜ、そのような言動をするのかをわかっていないことがありますし、

妻は、察してほしいので、妻から明確な答えが返ってこないことが多いです。

 

 

この問に対する答えについて、わかりやすく、

図解で読みやすく解説した本がでましたので、紹介します。

 

 

高草木陽光先生の「図解でわかる妻の取扱説明書」というムック本です。

 

 

 

この本の素晴らしいのは、妻の言動の疑問点に対する解説に加えて、

具体的かつ実践的な対処法が記載されているところです。

 

 

2 飲み会の嫌味への対処法

 

 

例えば、「仕事がらみの飲み会に対して嫌味を言われる」という項目では、

妻は、自分はどこにも行けないのにという不公平感を募らせているので、

一緒に出かけようかという楽しみを提示するという、対処法が記載されています。

 

 

私は、弁護士をしているので、多くの方と交流することで、

仕事につながる可能性があるので、飲み会は重要です。

 

 

また、仕事上、幹事として、飲み会を企画しなければならないことも多く、

飲み会が仕事となる場合もあります。

 

 

私が飲み会に行くと、私の妻は、機嫌が悪くなります。

 

 

私の妻は、私の仕事をある程度は理解しているはずなのですが、

飲み会にいくと、「いいわね、自分ばっかり美味しいものを食べて」と

毎回嫌味を言われます。

 

 

毎回、嫌味を言われると、妻が自分の仕事を理解していないことに不満をいだき、

夫婦ケンカに発展することが多いのですが、妻が嫌味を言う理由が、

妻には自由がないことへの不満にあることがわかり、

妻の言い分ももっともだと思えるようになりました。

 

 

子育てをしている妻が飲み会にいくのは困難であり、

夫が飲み会に行くと、不公平感が募るわけです。

 

 

 

そして、家事や育児をがんばっている自分を認めてほしいという、

妻の承認欲求があるので、家事や育児をがんばってくれてありがとうという、

感謝やねぎらいの言葉をかける必要があります。

 

 

妻と一緒に出かける楽しみを提案したり、夫が子供を預かって、

妻に自由な時間を与えれば、妻の不公平感が解消されるのです。

 

 

コロナの影響で、飲み会がなくなりましたが、

次に飲み会に行くときに、気をつけてみます。

 

3 十分な収入があっても不満を言われる場合の対処法

 

 

次に、「十分な収入があるのに、不満ばかり言う」という項目では、

妻は、精神的に満たされていないので、

感謝やねぎらいの言葉をかけたり、

妻の話をじっくり聞くという対処法が記載されています。

 

 

家族のためにまじめに働き、浮気もしていないのにも関わらず、

妻から離婚を切り出された方に多いのが、このケースのようです。

 

 

これは、よき夫が陥りやすい罠です。

 

 

夫は、家族のために一生懸命に働くことを優先しがちですが、

それだけでは、妻は精神的に満たされず、不満をためるので、

やはり、感謝やねぎらいの言葉をかけることが重要なのです。

 

 

妻に日頃の感謝を伝えて、妻の精神的な満足感を高める必要があるわけです。

 

 

4 妻は解決策を求めていない

 

 

また、知識としてわかっていても、

なかなか実践できていなかったこととして、

妻との会話のときに、解決策を言うのではなく、

そうだよねと言って相槌を打つことです。

 

 

 

妻は、夫との会話で解決策を求めていないので、

妻の話に共感すればいいので、相槌が重要になります。

 

 

妻が悩んでいるときには、「アドバイスしたほうがいい?」と確認してから、

解決策を提示すればいいのです。

 

 

妻が夫の解決策を求めているのかを、

妻に確認すればいいわけで、なるほどと思いました。

 

 

察してほしい妻に対して、察することのできない夫が、

妻が不機嫌になったときに、

どのように対処すればいいかがわかる素晴らしい本です。

 

 

この本に書いてあることを実践できれば、

夫婦関係が改善する糸口がでてきます。

 

 

悩める夫を救う一冊なので、紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございます。

徳田弁護士の記事が弁護士ドットコムニュースに掲載されました4

徳田弁護士の失業給付に関する記事が、弁護士ドットコムニュースに掲載されました。

 

 

本人の職場で感染者が発生したことを理由に、感染拡大防止や重症化防止の観点から自己都合退職した場合、失業給付の受給にあたり、給付制限が適用されません。

 

 

こちらのURLからアクセスしてください。

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_12356/

約30年間有期労働契約を更新してきた契約社員に対する無期転換直前の雇止めが無効になった事例~博報堂雇止め事件~

1 博報堂雇止め事件

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大によって、

雇用に大きな悪影響が生じています。

 

 

 

厚生労働省が公表している、全国の解雇等見込み労働者数は、

2021年1月8日時点で、80,836人となっており、

ついに8万人を超えました。

 

 

雇用情勢が悪化すると、契約社員、派遣社員、嘱託社員といった、

非正規雇用労働者から先に切られていくのが現状です。

 

 

とはいえ、非正規雇用労働者についても、勝っている裁判例はあります。

 

 

本日は、昨年注目された博報堂(雇止め)事件の

福岡地裁令和2年3月17日判決(労働判例1226号23頁)を紹介します。

 

 

この事件は、1年ごとの有期労働契約を約30年間、29回にわたって、

更新・継続されてきた契約社員が、

労働契約法の無期転換ルールの施行を契機とする雇止めが無効であると争いました。

 

 

平成25年までは、毎年4月1日に、

形式的に有期労働契約書に署名押印するだけでしたが、平成25年からは、

平成30年3月31日以降は有期労働契約を更新しないとする、

不更新条項が盛り込まれ、更新する際に面談が実施されるようになりました。

 

 

労働契約法18条では、有期労働契約が通算して5年を超えた場合に、

労働者が会社に対して、無期転換の申し込みをしたら、

有期労働契約から無期労働契約に転換することが定められています。

 

 

ようするに、5年経ったら契約社員から正社員に転換されるのです。

 

 

 

会社は、無期転換されたくないので、本件事件のように、5年を超える、

有期労働契約の更新はしないという不更新条項を盛り込んでいることがあります。

 

 

本件事件では、最初から不更新条項が盛り込まれていたのではなく、

有期労働契約が何回も更新されていて、

途中から不更新条項が盛り込まれたわけです。

 

 

2 労働契約は終了したか

 

 

まず、原告の契約社員が平成25年に、

平成30年以降に更新しないことに合意したので、

平成30年で有期労働契約が終了したかが争点になりました。

 

 

この争点について、裁判所は、約30年も有期労働契約を更新してきた

原告にとって、被告との有期労働契約を終了させることは、

生活面や社会的立場に大きな変化をもたらし、

負担もすくなくないことから、有期労働契約を終了させる合意については、

原告の明確な意思が必要であるとしました。

 

 

そして、原告は、不更新条項の盛り込まれた有期労働契約書に署名押印しましたが、

署名押印を拒否すると、更新できないことになるので、署名押印したからといって、

原告が有期労働契約を終了させる明確な意思があっとはいえないとされました。

 

3 雇止めは有効か

 

 

次に、原告に対する雇止めが有効かが争点となりました。

 

 

雇止めについては、有期労働契約が更新されるものと期待することについて

合理的な理由があり、雇止めが客観的合理的理由を欠き、

社会通念上相当でなければ無効となります。

 

 

本件事件では、原告は、昭和63年から平成25年まで

形式的に契約更新を繰り返していたので、

平成25年の時点で契約更新に対する期待は相当に高いと判断されました。

 

 

また、被告では、6年目以降でも、

業務実績に基づいて更新の有無を判断するという条項があるので、

原告の更新に対する期待については、合理的な理由があるとされました。

 

 

そして、被告が主張している、人件費の削減や業務効率の見直しという

一般的な理由では、本件の雇止めについて合理的な理由はないとされ、

雇止めが無効となりました。

 

 

有期労働契約の最初から不更新条項が盛り込まれていた場合には、

雇止めを争うのは困難ですが、何回か更新されていた途中で、

不更新条項が盛り込まれた場合には、雇止めを争う余地があります。

 

 

労働者に有利な裁判例として、紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうごいます。

飲み会でのセクハラについて会社に損害賠償請求できるのか

1 飲み会でのセクハラ

 

 

先日、次のようなセクハラの法律相談を受けました。

 

 

職場の同僚と飲み会に行き、二次会で、

同僚から体をむりやり触られるセクハラ被害にあい、

そのことを会社に対して報告したところ、

会社は、職場ではない私的な飲み会での出来事なので、

会社としては何もできないと回答したようです。

 

 

 

相談者は、当然ですが、会社の対応になっとくできません。

 

 

もっとも、雇用機会均等法11条では、

セクハラについて、次のように規定しています。

 

 

職場において、①労働者の意に反する性的な言動が行われ、

それを拒否するなどの対応により、解雇、降格、減給などの不利益を受けること、

または、②性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、

労働者の能力の発揮に悪影響が生じること。

 

 

雇用機会均等法の定義では、職場における性的な言動となっているため、

職場以外での飲み会での性的な言動については、

会社は、責任を負わないとも読めます。

 

 

それでは、職場以外の飲み会でのセクハラについて、

会社は、責任を負わないのでしょうか。

 

 

結論としては、職場以外の飲み会のセクハラについて、

会社が責任を負うこともあります。

 

 

2 使用者責任

 

 

まず、加害者である労働者が、被害者である労働者にセクハラをした場合、

被害者は、加害者を雇用している会社に対して、

民法715条の使用者責任を根拠に損害賠償請求することが考えられます。

 

 

民法715条の使用者責任を根拠に、損害賠償請求する場合、

加害者の不法行為が、会社の「事業の執行について」なされていなければなりません。

 

 

ここで、「事業の執行について」とは、事業の執行行為を契機として、

これと密接な関連を有すると認められる行為を言います。

 

 

①事業の執行とみられる行為と加害行為との時間的場所的な関連性の有無、

②加害行為が生じた原因と事業執行との関連性の有無、

の2つが肯定されるときに、「事業の執行について」の要件を満たすことになるのです。

 

 

具体例で説明しますと、取引先との接待終了後にカラオケにおいて、

男性上司から女性部下に対して、セクハラ行為が行われた場合、

接待時の対応について注意するとして、

業務に関連させて上司としての地位を利用して行われた場合には、

「事業の執行について」なされたと言えるので、

会社に対する使用者責任が認められることになります。

 

 

 

会社の忘年会でのセクハラ行為について、

会社の使用者責任が認められた裁判例として、

広島セクハラ(生命保険会社)事件の広島地裁平成19年3月13日判決

(労働判例943号52頁)があります。

 

 

3 職場環境配慮義務違反

 

 

次に、会社は、労働者に対して、

働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務を負っています。

 

 

これを職場環境配慮義務といいます。

 

 

会社が職場環境配慮義務に違反して、労働者に損害が発生した場合、

会社は、損害賠償責任を負います。

 

 

セクハラにおける会社の職場環境配慮義務としては、

①事前の防止のための措置を講じたか、

②事後の適切な対応を講じたか、の2つが問題となります。

 

 

①の事前の防止措置としては、

会社としてセクハラをしてはいけないという周知・啓発の手続措置、

上司や管理職に解するセクハラ研修などの人的管理をしていたかが検討されます。

 

 

②の事後の適切な措置としては、

迅速な調査、被害者・加害者に対する適切な対応、

被害拡大回避措置などが挙げられます。

 

 

職場以外の飲み会でセクハラが行われ、被害者が会社に対して、

苦情を申し出ても、会社が何も対応しなかった場合には、

会社は、事後の適切な対応を講じなかったとして、

職場環境配慮義務違反に該当して、損害賠償責任を負う可能性があります。

 

 

このように、職場以外の飲み会でのセクハラについて、

会社に責任が認められる可能性がありますので、

セクハラに対する会社の対応になっとくできない場合には、

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうごいます。

You Tubeへの挑戦

2020年12月末にYou Tubeを始めて、

本日までに7本の動画を作成しました。

 

 

 

最初のうちは、初めてのことばかりですので、

シナリオ作成→撮影→編集の全ての過程で時間がかかり、

一つの動画が完成するまでに、多くの時間を費やしていました。

 

 

ありがたいことに、私の動画について、

改善点を指摘していただける方々がいらっしゃいまして、

その改善点をとりいれて、ブラッシュアップしています。

 

 

改善点としては、①話すのが速いので、意識してゆっくり話す、

②モニターの画面が小さかったので、パワーポイントの文字を大きくする、

③映っている範囲やカメラが水平になっているかについて、

撮影前にきちんとセッティングする、などです。

 

 

最近、ようやく撮影した動画のカットができるようになり、

沈黙している時間や、くしゃみをしてしまった時間など不要な部分を削除でき、

よりよい動画を作成できるようになりました。

 

 

とはいえ、まだまだ動画を作成するのに、時間がかかります。

 

 

ブログを作成する倍の時間がかかります。

 

 

動画を作成するために、本業が圧迫されるのでは、本末転倒なので、

効率化を図りながら、You Tubeを継続したいと思います。

 

 

私がYou Tubeを始めたいと思った一つに、

自己成長したいという思いがありました。

 

 

ここ3年ほど、ブログをがんばってきましたが、

新しいことにチャレンジしたいという欲求が芽生えてきました。

 

 

自己成長するためには、コンフォートゾーン(快適領域)を出て、

新しいことにチャレンジすることが必要です。

 

 

私にとってブログがコンフォートゾーンになりつつあったので、

コンフォートゾーンを出て、自己成長するために、

You Tubeに挑戦してみようと思いました。

 

 

ただ、ブログとYou Tubeを両方すると、

確実に本業が圧迫されますので、当面は、You Tubeを優先します。

 

 

とはいえ、ブログも大切なので、不定期に更新していくことにします。

 

 

ブログも、You Tubeも、会社とトラブルになったときに、

会社と対等に交渉できる勇気を与えられるような、

働く人にとって有益な労働法の情報を発信していきますので、

今後ともよろしくお願い致します。

 

 

最後に、これまでに作成した動画を紹介します。

 

 

  • 不当解雇の対処法

https://youtu.be/FMTYz_Q67Qc

 

 

 

 

  • 会社からやめてくれないかと言われたら・・・

 https://youtu.be/RDh1qyqLgYc

 

 

  • パワハラにあったら録音する

https://youtu.be/hRauxrHes2Y

 

 

  • 会社をやめるには?

https://youtu.be/lx5TH3YuqAQ

 

 

  • 仕事中にけがをしたら労災申請をする

https://youtu.be/z852dcW4Kig

 

 

  • 会社が労災と認めてくれないときの対処法

https://youtu.be/aAibtm0dwAs

 

 

本日もお読みいただきありがとうごいます。

有期労働契約に不更新条項や更新上限条項がある場合には更新されないのか

1 有期労働契約における不更新条項や更新上限条項

 

 

先日、非正規雇用労働者の方から、次のような労働相談を受けました。

 

 

契約期間を3年間とする、有期労働契約を締結したのですが、

3年を過ぎても、会社で働き続けることは可能でしょうか。

 

 

その方は、会社から、3年間で有期労働契約が終了するとの説明を受けており、

労働契約書にも、3年を超えての更新はしないことが明記されていました。

 

 

このように有期労働契約を更新しないとする不更新条項や、

有期労働契約の契約期間の上限が定められている更新上限条項がある場合、

契約期間を超えて、有期労働契約が継続されることがあるのでしょうか。

 

 

 

結論としては、契約期間を超えて、有期労働契約が継続されることはなく、

雇止めが有効になることがほとんどです。

 

 

2 雇止めの法律関係

 

 

まず、有期労働契約は、契約期間の満了で終了するのが原則です。

 

 

他方、有期労働契約であっても、契約期間が満了しても、

会社が有期労働契約を更新してくれれば、

非正規雇用労働者の雇用は継続します。

 

 

有期労働契約の契約期間の満了で、

更新を拒絶することを雇止めといいます。

 

 

次に、有期労働契約が長期間にわたって、

反復継続して更新されてきた場合には、例外的に、

有期労働契約が継続されることがあります。

 

 

すなわち、非正規雇用労働者において、

有期労働契約が更新されるものと期待することについて、

合理的な理由がある場合には、雇止めが無効となって、

有期労働契約が更新される余地があるのです(労働契約法19条)。

 

 

この有期労働契約が更新されるものと期待することについての

合理的な理由があるかを検討する際に、

不更新条項や更新上限条項がマイナスにはたらくのです。

 

 

有期労働契約を更新しないことが労働契約書に明記されていれば、

有期労働契約が更新されると期待できないわけです。

 

 

このことは、最初に有期労働契約を締結する際に、

不更新条項や更新上限条項が定められている場合に、

よくあてはまります。

 

 

3 有期労働契約の更新の途中で不更新条項や更新上限条項がいれられた場合

 

 

もっとも、有期労働契約を何回か更新していた途中で、

不更新条項や更新上限条項がいれられた場合には、事情が少し変わります。

 

 

 

すでに何回か有期労働契約を更新していく過程で、非正規雇用労働者に、

一定程度の契約更新への期待が存在していた場合であれば、

途中で、不更新条項や更新上限条項を定めたことに、

非正規雇用労働者が、自由な意思に基づいて合意していなかったなら、

不更新条項や更新上限条項を理由とする雇止めが無効になる可能性があります。

 

 

非正規雇用労働者が、自由な意思に基づいて、

不更新条項や更新上限条項に同意したかを検討するにあたっては、

次の事情が考慮されます。

 

 

・説明会などで雇止めの経緯や理由などについて十分な説明があったか。

 

 

・非正規雇用労働者の意思表示が明確であったか

(異議を示したか、署名押印をしたのか)。

 

 

・退職届を提出したか。

 

 

会社が、非正規雇用労働者に対して、

十分な説明をするなどの手続きをふまずに、

更新年数や更新回数の上限を一方的に宣言しただけでは、

いったん非正規雇用労働者に生じた契約更新に対する

合理的期待は消滅しないのです。

 

 

その結果、有期労働契約を反復継続していた途中で、

不更新条項や更新上限条項がいれられた場合には、

雇止めを争う余地がでてきます。

 

 

以上をまとめますと、有期労働契約の最初から、

不更新条項や更新上限条項が定められている場合には、

雇止めを争うのは困難ですが、有期労働契約を反復継続していた途中で、

不更新条項や更新上限条項がいれられた場合には、

会社が十分な説明をしていないといった事情があれば、

雇止めが無効になる可能性があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうごいます。

給与の減額が大きい場合には降格は無効になりやすい

あけましておめでとうございます。

 

 

 

今年も、このブログをよろしくお願い致します。

 

 

さて、本日は、降格についての裁判例を紹介します。

 

 

転籍拒否後の降格・賃金減額の有効性が争点となった、

ニチイ学館事件の大阪地裁令和2年2月27日判決です

(労働判例1224号92頁)。

 

 

原告の労働者は、被告の会社から、

別の会社で働くこと(転籍)を打診されましたが、

これを拒否しました。

 

 

この転籍を拒否した後、原告は、上司から、

目標を設定することを指示されて、目標設定をしましたが、

その目標を達成できず、課長から、課長代理、課長補佐、係長と

3段階も降格されました。

 

 

原告は、この降格によって、総額24万5000円の給与が減額され、

もともとの給与の約45%も減額されたのです。

 

 

そこで、原告は、この降格と給与の減額が、人事権の濫用であって、

無効であるとして、未払賃金の請求をしました。

 

 

裁判所は、次の事情を考慮して、

本件降格は人事権の濫用に該当するとして、無効と判断しました。

 

 

 

・被告会社は、本件降格前に、原告を営業所長に

ふさわしい人物として評価していたこと。

 

 

・目標設定自体が原告にとって達成困難であることを被告も認めていたこと。

 

 

・原告が担当することになった法人営業が、

被告において十分な実績がなく、これから強化していく分野であったため、

わずか1年の実績で原告の適性を評価するのは酷であること。

 

 

そして、原告のもともとの給与の約45%を減額することは、

原告が被る不利益が大きすぎ、本件降格には、

原告に対して大きな不利益を与えるまでの相当性がないとして、

本件降格は無効とされました。

 

 

給与の減額が大きい場合には、労働者が被る不利益の大きさから、

降格の有効性は厳格に判断されることになります。

 

 

労働者が大きな不利益を被ってもしかたがないといえるだけの、

降格の事情がないと、降格が人事権の濫用に該当しやすくなります。

 

 

労働者が降格を争う上で、参考になる裁判例ですので、紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうごいます。