始業時刻前の早出残業は労働時間ではないという会社側の主張に対する効果的な反論とは

1 始業時刻前の早出残業は労働時間ではないのか

 

 

未払残業代請求事件では、会社側から、

始業時刻前の早出残業については、

労働時間とは認められないという主張がされることがあります。

 

 

労働契約書や就業規則で決められた始業時刻よりも前に、

早目に出社した場合には、早目に出社して仕事をしていても

残業とはみなさないという主張です。

 

 

 

終業時刻後の残業については、

労働時間と認められることがほとんどですが、

始業時刻前の残業については、

労働時間と認めないと判断した裁判例もあるので、

会社側は、このような主張をしてくることがあります。

 

 

それでは、始業時刻前の早出残業については、

労働時間と認められないのでしょうか。

 

 

結論としては、事情によっては、

始業時刻前の早出残業についても、

労働時間と認められることはあります。

 

 

2 労働時間の定義と黙示の指示

 

 

まず、労働基準法の労働時間とは、

労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

会社の指揮命令下に置かれているとは、

会社から残業を命じられるという明示の指示がある場合が典型です。

 

 

もっとも、明示の指示以外に、

会社からの黙示の指示に基づく場合でも、

会社の指揮命令下に置かれたことになるのです。

 

 

この黙示の指示については、

労働者が規定と異なる出退勤を行って残業をしており、

そのことを認識している会社が異議を述べていない場合や、

業務量が所定労働時間内に処理できないほど多く、

時間外労働が常態化している場合に認められます。

 

 

3 黙示の指示が認められた裁判例

 

 

具体的な事例でみてみましょう。

 

 

京都銀行事件の大阪高裁平成13年6月28日判決

(労働判例811号5頁)では、

始業時刻は8時35分からになっていたのですが、

8時15分から金庫の開扉の準備作業が行われていたこと、

融得会議などの会議が開催されていたことから、

始業時刻前の8時15分から8時35分までが労働時間と認定されました。

 

 

この事件では、多くの銀行員が8時ころまでに出勤しており、

銀行の業務としては金庫を開きキャビネットを運び出し、

それを各部署が受け取り、業務の準備がなされていたことなどが、

労働時間の認定の際に考慮されました。

 

 

他の労働者の勤務実態や、準備作業と本業との関連性などが、

黙示の指示の判断の際に考慮されるといえそうです。

 

 

 

もう一つ、黙示の指示が認めれた事例として、

東京都多摩教育事務所(超過勤務手当)事件の

東京高裁平成22年7月28日判決

(労働判例1009号14頁)があります。

 

 

この事件では、正規の勤務時間内に完了できない業務を与えられていて、

正規の勤務時間以外の時間や休日に業務を行っていたこと、

時間外勤務が公務の円滑な遂行に必要な行為であったこと、

上司が超過勤務があることを知って容認していたこと、

といった事情が考慮されました。

 

 

決められた勤務時間では終わらない量の仕事を与えられていて、

上司が残業していることを黙認しているような場合には、

黙示の指示が認められやすくなるのです。

 

 

以上まとめますと、始業時刻前の早出残業については、

勤務時間内に処理できないほどの業務量が与えられていたこと、

上司が残業を認識していて異議を述べていないこと、

他の労働者の勤務実態、準備作業が本業と関連していること、

などの事情があれば、黙示の指示に基づく残業として、

労働時間と認定されて、残業代請求が認められることになるのです。

 

 

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