パワハラ防止指針が確定しました

1 パワハラ防止指針とその問題点

 

 

12月23日,どのような言動がパワハラに該当するのか

をまとめたパワハラ防止指針が確定しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMDR4RZPMDRULFA01G.html

 

 

事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する

問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」といいます。

 

 

この指針では,パワハラの定義として,

①優越的な関係を背景とした言動であって,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,

③労働者の就業環境が害されるもの,

と定められました。

 

 

この定義の中の「①優越的な関係を背景とした」の解釈について,

パワハラの被害者が,パワハラの加害者に対して

抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

を背景として行われるものを指すとされています。

 

 

 

しかし,被害者がパワハラの言動を嫌だと思えば,

加害者に対して,多少の抵抗や拒絶の反応を示すことが通常であり,

優越的な関係を抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

と解釈してしまうと,パワハラに該当する言動が

不当に制限されるおそれがあります。

 

 

また,今回の指針では,規制の対象となるパワハラは,

職場において行われた言動が対象となっていますが,

会社の労働者が多く参加する懇親会の場で行われたパワハラは,

規制の対象外となってしまいます。

 

 

そのため,これらの問題点について,

指針案から改善されることを願っていましたが,

残念ながら,改善されることはありませんでした。

 

 

とはいえ,これまでなかったパワハラ規制が

一歩前進したのは事実なので,今後は,

指針を労働者に有利に活用していくことが求められます。

 

 

2 パチンコ店におけるパワハラ労災民事訴訟

 

 

さて,ここでパワハラに関する労災の裁判例を紹介します。

 

 

上司からのパワハラによって,うつ病を発症し,長期間,

会社を休んで療養することを余儀なくされた労働者が,

会社に対して損害賠償請求をした松原興産事件の

大阪高裁平成31年1月31日判決です(労働判例1210号32頁)。

 

 

この事件では,パチンコ店の上司が部下に対して,

他の労働者も聞こえる状態のインカム

(スタッフに対して一斉指令ができる構内電話)で,

「しばくぞ」,「殺すぞ」などと怒鳴りつけました。

 

 

 

また,上司は,部下に対して,景品交換カウンター横に立ち番をさせて,

景品交換にくる客に声掛けのあいさつをさせることを約1時間させて,

他の従業員に対して「みんなもちゃんと仕事をしなかったらあんな目にあうぞ」

とインカムを通じて発信して,晒し者にしました。

 

 

これらのパワハラによって,部下はうつ病を発症し,

5年半もうつ病の症状が改善しませんでした。

 

 

3 指針のパワハラ該当例へのあてはめ

 

 

「しばくぞ」,「殺すぞ」などと怒鳴ることは,

人格を否定する精神的な攻撃に該当し,さらに,

インカムで他の労働者にも聞こえるようにしている点で,

指針のパワハラの該当例である

他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

にあたります。

 

 

また,景品交換カウンター横での立ち番については,

極めて屈辱的な扱いを強いるものであり,

業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた

程度の低い仕事を命じているので,

指針の過小な要求のパワハラに該当します。

 

 

これらのパワハラについて,休業損害716万円,

慰謝料300万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

パワハラ防止の指針ができることで,

このようなパワハラがなくなることを期待したいです。

 

 

会社のパワハラ防止措置については,

大企業は2020年6月から,

中小企業は2022年4月から義務付けられます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。