楽天における暴行のパワハラ労災事件からパワハラ防止措置義務を考える
1 楽天における暴行のパワハラ労災事件
昨日のブログでは,楽天における上司から部下への暴行について,
労災認定されたことを記載しました。
この楽天の事件で,被災労働者は,
マスコミに対して,次のようにコメントしています。
「会議中の暴行で怪我を負い,
困って社内のパワハラ相談の部署に相談したにもかかわらず,
十分な調査もせず,相談を否定され,
配転希望にも対応してもらえず,退職せざるを得なかった。」
仮に,この被災労働者のコメントが真実であれば,
楽天は,改正労働施策総合推進法30条の2に規定されている,
パワハラ防止措置義務に違反することになると考えられます。
本日は,パワハラ防止措置義務について説明します。
2 パワハラ防止措置義務
改正労働施策総合推進法30条の2第1項には,
「事業主は,職場において行われる
優越的な関係を背景とした言動であって,
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう,
当該労働者からの相談に応じ,
適切に対応するために必要な体制の整備
その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」
と規定されています。
すなわち,会社は,パワハラを防止するために
必要な措置をしなければならないのです。
その具体的な内容については,11月に指針案が公表されました。
会社が講じなければならないパワハラ防止の措置の1つ目は,
パワハラを行ってはならない方針等の明確化及びその周知・啓発です。
就業規則などにパワハラを行ってはならないという方針を明確化し,
パワハラに対する懲戒処分を規定して,労働者に周知させ,
パワハラ予防の研修などで啓発するというものです。
2つ目は,パワハラの相談に応じ,
適切に対応するために必要な体制の整備です。
会社は,パワハラの相談窓口を設置して,
労働者に周知しなければなりません。
また,パワハラの相談窓口の担当者が,
パワハラ被害者からの相談に対して,
適切に対応する必要があります。
具体的には,相談窓口の担当者は,
パワハラ被害者の相談を傾聴し,
相談内容の秘密を厳守し,
適切な事後対応につなげることが求められます。
楽天の事件では,被災労働者は,
相談を否定されたとコメントしているので,
相談窓口での対応が不十分だったのかもしれません。
相談窓口の担当者には,人の話を傾聴するスキルが求められるので,
コミュニケーションに関する研修を受けた
適切な人材を配置する必要があります。
相談窓口で適切な対応がなければ,
事後対応につながらないので,
相談窓口の役割は重要です。
3つ目は,事後の迅速かつ適切な対応です。
まずは,被害者,加害者から事実関係を聴取します。
次に,事実確認の結果,パワハラの事実が確認できた場合,
被害者と加害者を引き離すための配置転換,
加害者から被害者に対する謝罪,
加害者に対する必要な懲戒処分などを実施します。
パワハラの事実が確認できなかった場合,
パワハラの事実が確認できないと判断した理由を
相談者に丁寧に報告します。
パワハラの事実が確認できなかったものの,
そのまま放置しておくと関係が悪化する場合には,
関係改善を促すことが考えられます。
楽天の事件では,被災労働者のコメントが真実であれば,
パワハラの事実関係の調査に問題があり,
その結果,パワハラの事実を確認できず,
適切な事後対応がなされなかったのかもしれません。
そして,労働者がパワハラを受けたにもかかわらず,
会社がパワハラ防止措置義務を怠った場合,
会社は,損害賠償義務を負うリスクがあります。
労働者が安心して働くことができるように,多くの会社が,
真摯にパワハラ防止措置を実施してくれることを期待したいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。