三菱電機のパワハラ自殺において自殺教唆の刑事事件に発展した意義

1 パワハラ自殺が自殺教唆の刑事事件に発展

 

 

三菱電機の20代の新入社員が

教育主任から「死ね」などと言われて自殺した事件において,

兵庫県警は,この教育主任を,自殺教唆の疑いで

神戸地検に書類送検したようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMD65HGDMD6ULFA021.html

 

 

報道によりますと,自殺した新入社員は,自殺する前に,

この教育主任から「死ね」などと言われていたことを

メモに残していたようで,そこから捜査が始まったものと思います。

 

 

捜査の結果,自殺した新入社員が教育主任から

「死ね」と言われていたのを聞いたと,

複数の社員が証言したようで,

証拠がある程度集まったのでしょう。

 

 

刑法202条の自殺教唆の犯罪は,

自殺の決意を有しない者に対して自殺を決意させた場合に成立します。

 

 

 

三菱電機の事件では,上司である教育主任が

部下である新入社員に対して,「死ね」と精神的な攻撃を加えて,

自殺を決意させたので,自殺教唆の犯罪が成立する可能性はあります。

 

 

2 自殺の因果関係

 

 

また,精神的な攻撃によるパワハラで,

うつ病を発病した労働者が自殺した場合,

精神疾患の労災認定基準では,

精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,

あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が

著しく阻害されている状態に陥ったものと推定して」,

仕事が原因でうつ病を発病して自殺したという因果関係が認められます。

 

 

この考え方は,うつ病を含む精神障害は,

環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性

との関係で発病するのであり,ストレスが非常に強ければ,

個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし,

逆に,個体側の脆弱性が大きければ,

ストレスが小さくても精神障害が起こるという,

ストレス・脆弱性理論をもとにしています。

 

 

そのため,労働者に,精神的な攻撃などのパワハラによって,

強度な心理的負荷が加わった場合,

仕事以外の心理的負荷がないのであれば,

仕事と精神障害の発病及びこれを原因とする自殺との間に

因果関係が認められるのです。

 

 

この精神障害の労災認定基準における因果関係の考え方は,

今回の三菱電機の自殺教唆事件においても,

応用できるのではないかと考えます。

 

 

ただ,刑事事件では,新入社員が自殺してもいいと,

教育主任が認識していることが必要で(これを故意といいます),

起訴まで持ち込むのには,ハードルが高いものです。

 

 

教育主任の故意を立証するための証拠を

固められるのかがポイントになると思います。

 

 

3 「死ね」などと言うパワハラがなくなることを期待したい

 

 

パワハラ防止措置義務が法律に明記され,

パワハラに対する世間の目が厳しくなっていく中で,

今回の自殺教唆が刑事事件に発展しました。

 

 

 

今回の自殺教唆の刑事事件において,

教育主任が起訴されて有罪となれば,

強力な抑止力となって,上司が部下に「死ね」などと言う

パワハラが減少すると予想されますので,

この刑事事件の動向に注目したいです。

 

 

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