精神的な攻撃のパワハラ,賃金の減額,賞与の不当な査定が争われた事例

1 精神的な攻撃のパワハラ

 

 

本日は,昨日に引き続き,パワハラに関する裁判例を紹介します。

 

 

本日,紹介する裁判例は,キムラフーズ事件の

福岡地裁平成31年4月15日判決です(労働判例1205号5頁)。

 

 

この事件では,会社の代表者が,

原告である労働者に対して,次のような発言をしました。

 

 

 

「私はあなたのことをまったく信用していない」

 

 

「給料に見合う仕事ができていないと判断したら給料を減額する」

 

 

「私を無視し続けるということは,

会社をないがしろにしていると判断して,

あなたを解雇することもできる」

 

 

「遅い,急げ,給料を下げるぞ」

 

 

「給料分の仕事をしていない」

 

 

「27万円の給料をもらっている者の仕事ではない」

 

 

「もうこの仕事をできませんと言え。

そうすればお前をくびにして,新しい人間を雇う」

 

 

これらの言動は,給料を減額するや解雇するといった

不利益な取扱を示唆して,精神的に圧迫しておりますし,

給料に見合う仕事をしていないとして,

当該労働者の尊厳を踏みにじっているといえますので,

パワハラの6類型の1つの精神的な攻撃に該当します。

 

 

当然,これらの言動は,業務上の指導の範囲を逸脱しておりますので,

違法と判断されました。

 

 

しかし,原告の労働者は,半年以上の期間にわたって,

威圧的,侮辱的な言葉の暴力を受けていたのですが,

パワハラの慰謝料は50万円と判断されました。

 

 

言葉の暴力だけのパワハラの場合,

慰謝料が低額に判断されるハードルがあることがよく分かります。

 

 

2 一方的な賃金の減額は違法です

 

 

この事件では,パワハラ以外にも,賃金減額についても争われました。

 

 

被告会社が,原告の労働者の賃金を,一方的に減額したのです。

 

 

賃金は,労働者にとって,重要な労働条件の1つであり,

賃金を減額するためには,労働者の個別の同意か,

就業規則や賃金規定などの明確な根拠が必要であり,

会社が一方的に賃金を減額することはできません。

 

 

被告会社には,就業規則に賃金減額の規定がないため,

原告労働者に対する賃金減額は無効となり,差額賃金の請求と,

減額前の賃金の支払いを受ける労働契約上の地位確認が認められました。

 

 

賃金を会社の一存で減額できると考えている

経営者がいるかもしれませんが,

それは間違いであることを知ってもらいたいです。

 

 

3 賞与の不当な査定が違法になるとき

 

 

そして,この事件では,賞与の査定についても問題となりました。

 

 

賞与の査定においては,会社に一定の裁量が認められていますが,

会社は,その裁量権を濫用してはならず,

公正に賞与の査定をするべきです。

 

 

 

会社が正当な理由なく賞与の査定を怠ったり,

裁量権を濫用して労働者に不利な査定をした場合には,

労働者の期待権を侵害したとして,

損害賠償請求が認められることがあります。

 

 

本件事件では,被告会社が,原告労働者の賞与の算定にあたり,

公正な査定を行わず,恣意的に賞与を減額したとして,

20万円の損害賠償請求を認めました。

 

 

パワハラ,賃金の減額,賞与の不当な査定などの問題点について,

労働者が勝訴した事例として紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。