代理店の個人事業主は商業使用人か?~ベルコ事件~
労働事件の法律相談を受けていますと,会社と個人が,
形式的には委任契約,業務委託契約という名称で
契約を締結しているのですが,実質的にみると,
労働契約であるという相談案件があります。
なぜ,このような労働相談が生じるのかといいますと,
会社と個人の契約関係が労働契約となれば,
会社は,労働基準法に定められている
労働時間などの規制を守らなければならず,
また,簡単に解雇できないのですが,
労働契約ではない場合には,
労働時間などの規制はなくなり,
契約条項に従って,契約を解約できるようになります。
すなわち,会社と契約した個人が労働者ではないと判断されれば,
会社は,残業代を支払わなくてよくなり,
解雇よりも契約を解約しやすくなり,
会社にとって都合がいいのです。
しかし,単に契約の形式や名称のみで,
労働関係法令が適用されるか否かが決定されてしまえば,
会社が容易に労働関係法令を潜脱して,
個人が労働者として保護されなくなってしまうので,
労働者か否かは,実質的に判断されるのです。
このような労働者か否かを巡る事件で,
今新しい争点が生じています。
それは,会社と代理店契約を締結した個人が
商業使用人か否かという争点です。
この争点は,ベルコ事件で問題となりました
(札幌地裁平成30年9月28日判決・労働判例1188号5頁)。
ベルコという冠婚葬祭業界の最大手の会社は,
個人事業主と代理店契約を締結し,
その個人事業主が従業員と労働契約を締結していました。
従業員は,個人事業主と労働契約を締結しているので,
形式的にはベルコと労働契約関係にはないのです。
(2018年11月19日朝日新聞より抜粋)
ベルコの2017年の決算報告書によれば,
従業員数は7128人であるにもかかわらず,
正社員はわずか32人で,その他の7000人以上は,
業務委託先である代理店に雇用されている臨時社員などです。
ベルコは,労働契約関係から生じる社会保険の加入,
残業代の支払など会社が負担すべき義務を免れて,
末端の代理店にそれらの負担を負わせていることになります。
ベルコの代理店である個人事業主と労働契約を締結した従業員が,
ベルコと労働契約関係にあるといえるためには,
ベルコの代理店である個人事業主が
ベルコの商業使用人と認められる必要がありました。
商業使用人とは,会社内にあって経営者に従属しながら,
経営者の営業活動を補助する者のことをいいます(会社法14条1項)。
ベルコの代理店である個人事業主が,
ベルコの商業使用人と認められれば,
代理店の個人事業主は,
ベルコの従業員ないしはそれに類した立場となり,
独立した契約締結主体ではなくなり,
ベルコの代理人として従業員と
労働契約を締結したことになります。
すなわち,代理店の個人事業主は,ベルコの代理人として,
従業員と労働契約を締結したのであるから,代理の効果として,
代理店の個人事業主の従業員は,
ベルコと労働契約関係にあることになります。
しかし,札幌地裁は,代理店の個人事業主を,
ベルコの商業使用人とは認めませんでした。
(https://www.hokkaido-np.co.jp/article/242551より抜粋)
代理店の個人事業主は,ベルコから,
担当すべき業務について指示指導を受けており,
仕事を拒否することが相当程度制約されていたものの,
従業員の報酬を決めていたり,
労働時間や場所について裁量があったとして,
商業使用人ではないと判断されたのです。
この結論には納得できません。
雇用の責任を代理店に押し付けて,
会社が労働関係法令の規制を免れる仕組みが認められてしまえば,
労働者ではないように偽装する企業が多くなり,
労働者として保護されない人が増えてしまうからです。
原告が控訴したので,今後は,札幌高裁で戦いは続きます。
ぜひ,労働者として保護される判決が
くだされることを願いたいです。
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