ブラックな就業規則の条項

先日,未払い残業代の法律相談を受けたところ,

次のような就業規則の条文について,相談がありました。

 

 

「従業員が会社の許可なく時間外労働・休日労働に出勤するも,

労働の事実の確認(黙示も含む)をすることができない場合は,

当該勤務に該当する部分の通常賃金および割増賃金は支払わない。

 

 

相談者は,就業規則にこの条文があるので,

残業をするのに会社の許可をもらっていないので,

会社が残業を認めてくれないと,

残業代を請求できないのではないでしょうか,

という心配をされていました。

 

 

 

 

就業規則に「割増賃金は支払わない」と規定されているだけで,

労働者は,残業代を請求できないと思いこんでしまうのです。

 

 

それでは,就業規則に上記の条文があり,

労働者が会社の許可をえずに残業した場合,労働者は,

会社に残業代を請求できないのでしょうか。

 

 

本日は,就業規則の効力について,解説していきます。

 

 

就業規則とは,労働者が職場で守るべきルールと

労働者の労働条件について定められた規則のことです。

 

 

 

 

就業規則が効力を生じるためには,

就業規則の内容が合理的であることと,

就業規則が周知されていることが必要になります(労働契約法7条)。

 

 

就業規則の合理性は,会社の人事管理上の必要性があり,

労働者の権利・利益を不相当に制限していなければ認められます。

 

 

また,会社は,作成した就業規則について,

①常時各作業場の見やすい場所に掲示,備え付けておく,

②就業規則を労働者に直接交付する,

③従業員がいつでもアクセスできるネット上にアップしておく,

などの方法で労働者に周知しなければなりません(労働基準法106条)。

 

 

もっとも,就業規則を労働者が知りうる状況にしておけばよく,

労働者が実際に就業規則の内容を知ることまでは必要ないのです。

 

 

さらに,就業規則は,法令や労働協約に

違反してはならず(労働基準法92条),違反する部分については,

労働者に適用されません(労働契約法13条)。

 

 

さて,以上を前提に,先ほどの就業規則の条文を検討してみます。

 

 

まず,「労働の事実の確認(黙示も含む)

をすることができない場合は,割増賃金を支払わない」

という部分について,労働者が残業をしても,

会社が残業の事実を確認できなかったと言えば,

残業代を請求できないとなると,

労働者の権利・利益を不相当に制限することになるので,

合理性が認められません。

 

 

次に,「割増賃金を支払わない」とありますが,

労働基準法37条には,労働者が残業した場合には,

割増賃金を「支払わなければならない」と規定されています。

 

 

会社が労働基準法37条に違反した場合には,

労働基準法119条1号により

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

が科せられることがあります。

 

 

そのため,上記の就業規則の条文は,

労働基準法37条の内容に違反しているので,

無効になるといえます。

 

 

よって,上記の就業規則の条文があり,

会社の許可なく残業をして,会社が残業を認識していなくても,

労働者は,会社に対して,未払い残業代を請求できるのです。

 

 

 

 

労働者が残業をしているのを会社が黙認している場合や,

残業しなければできない業務を指示していた場合には,

会社が後から裁判になって,残業を禁止していた,

残業の許可をしていなかったと主張してきても,到底認められません。

 

 

会社は,上記のようなブラックな就業規則の条項を

作成していることがありますので,労働者は,

就業規則の内容をよく確認することが重要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。