会社のお金を着服した場合の懲戒処分
非常にローカルな話題ですが,
石川県漁業協同組合から現金合計約170万円を着服したとして,
漁協の元理事で輪島市の市議会議員が,
業務上横領の被疑事実で書類送検されました。
報道によりますと,この市議会議員は
出張旅費名目で現金を受け取りながら,
領収書を全く提出せず,
私的な飲食代とみられる請求を繰り返す,
カラ出張をしていたようです。
刑事事件に発展した今回の着服ですが,
労働者が会社のお金を着服してしまった場合,
どのような懲戒処分を受けることになるのでしょうか。
本日は,出張旅費の不正受給を懲戒理由とする
停職処分の効力が争われた森町・町長ほか事件を紹介します
(函館地裁平成30年2月2日判決・労働判例1187号54頁)。
この事件の原告は,地方公共団体の職員であり,
課長の地位にありました。
原告は,中学校野球部の父母会の会計を担当していたときに,
不適切な会計処理を行い,合計7万9774円を着服しました。
次に,原告は,東京で開催された火山防災会議に
参加するために必要な旅費を,地方公共団体から
概算払で受け取っていたにもかかわらず,
火山防災会議を開催していた団体から
交通費及び謝金を受け取りました。
しかし,原告は,出張後に旅費の清算をしなければならない
にもかかわらず,7万1880円を着服しました。
これらの着服行為が発覚して,原告は,
着服したお金を返金しましたが,
地方公務員法29条1項3号の
「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合」
に該当するとして,父母会の着服を理由として,
6ヶ月の停職処分を受け,出張旅費の着服を理由として,
さらに6ヶ月の停職処分を受けました。
裁判では,出張旅費の着服の停職処分の効力が争われました。
まず,懲戒処分が有効となるためには,
懲戒理由が存在する必要があります。
原告が火山防災会議を開催していた団体から
交通費及び謝金が支給されたことを隠して,
意図的に旅費の清算をしなかったことから,
懲戒理由が認められました。
次に,その懲戒理由に対して,その懲戒処分は
重すぎないかという相当性が検討されます。
原告が所属していた地方公共団体では,
管理職の地位にある者の懲戒処分については,
一段階重い懲戒処分を行うことができると定められており,
原告が課長であったこと,
父母会の着服行為を理由として懲戒処分を受けていることも考慮して,
6ヶ月の停職処分は相当であると判断されました。
金銭的な不正行為の事例では,金額の多い少ないを問わず,
懲戒解雇のような重大な処分であっても有効とされる傾向にあります。
そのため,着服した金額が少なかったとしても,
過去に同じようなことをしていたり,
役職が高かった場合には,6ヶ月の停職処分や懲戒解雇であっても
有効と判断される可能性があります。
そう考えると,石川県漁協の事件では,
着服金額も大きく,理事という役職に就いていたこともあり,
懲戒解雇されても有効と判断される可能性が高いです。
くれぐれも,会社のお金には手を出さないでくださいね。
本日もお読みいただきありがとうございます。