年功序列型賃金から成果主義型賃金への変更
これまでは,年功序列型賃金だったため,
ある程度の年齢になれば,自動的に昇給していたのに,
就業規則が変更されて,これからは,
労働者の成果に応じて賃金を支払う
成果主義型賃金に変更されたとします。
その結果,ある労働者の賃金が減額されてしまいました。
このように,会社の賃金体系が変更された場合,
労働者は,どのように争うことができるのでしょうか。
賃金体系が変わると,もらえる給料の金額に
変更が生じますので,労働者としては,
このまま会社の言うとおりに従わなければ
ならないのか悩みますよね。
本日は,就業規則による労働条件の変更について解説します。
まず,会社が労働条件を変更する方法は,2つあります。
1つは,労働条件を変更することについて,
労働者と個別に同意する方法です。
もう1つは,就業規則を変更することで,
労働条件を変更する方法です。
就業規則とは,会社におけるルールを定めたものであり,
会社が一方的に決定するものです。
会社は,多くの労働者と労働契約を締結しているのですが,
全ての労働者の合意をとりつけるのは困難であり,
労働者の公平を保つためにも,就業規則を変更して,
労働条件を変更させる必要があるのです。
とはいえ,無条件に,労働条件が労働者に
不利益に変更されたのでは,
労働者の労働条件が一方的に切り下げられて,
労働者にとって酷な結果となります。
そこで,就業規則によって,労働条件を不利益に変更するには,
就業規則の変更が合理的でなければなりません。
そして,就業規則の変更の合理性を検討する際に,
労働者の受ける不利益の程度,
労働条件の変更の必要性,
変更後の就業規則の内容の相当性,
労働組合などとの交渉の状況
などが総合考慮されて,合理的か否かが検討されます。
それでは,年功序列型賃金から成果主義型賃金へ
就業規則が変更されたことが争われた
東京商工会議所事件を検討してみましょう
(東京地裁平成29年5月8日判決・労働判例1187号70頁)。
この事件では,年功序列型賃金から成果主義型賃金
に変更されたことによって,原告の労働者の賃金が
42万7300円から41万1300円に減額されました。
まず,労働条件の変更の必要性についてです。
この事件では,経営難から人件費を削減するためではなく,
会員や社会に対してより質の高いサービスを提供するために,
必要な人材を育成し,組織を強化するための
人事制度を見直す中で,職員の能力や成果を適正に評価して,
その評価に応じた報酬を支給する目的で賃金体系を変更したので,
賃金の配分の仕方を見直したものと判断されました。
そして,賃金の配分の見直しについては,
会社の経営判断に委ねられる部分が大きいので,
年功序列型賃金から成果主義型賃金へ変更する
経営判断に合理性はあり,変更の必要性が認められました。
次に,労働者の不利益について,給料が一度減額されたしても,
その後の努力次第で増額の余地があるので,
不利益の程度は大きくないとされました。
内容の相当性について,どの従業員にも
人事評価の結果次第で等しく昇給の機会が与えられており,
公平性があり,激変緩和措置として,
3年間調整給が支給されるので,内容の相当性も認められました。
会社は,労働組合に対して,丁寧に説明をしていたため,
労働組合との交渉も問題ありませんでした。
結果として,年功序列型賃金から成果主義型賃金へ
就業規則を変更することは合理的であり,有効と判断されました。
成果主義型賃金の場合,一時期給料が下がったとしても,
その後の成績によっては,給料が上がる可能性があるので,
これを不合理とするのは難しいのだと思います。
労働者としては,成果主義型賃金が導入された場合,
その制度の中で,成果を挙げられるように
努力した方がいいのでしょう。
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