シフト表を証拠にして未払い残業代を請求する

「たくさん働いているのに,残業代が支払われていない」,

「サービス残業が当たり前なのはおかしい」

 

 

 

 

このような残業代の未払いについての法律相談は多いです。

 

 

労働者が8時間を超えて働いた場合,

会社は残業代を支払わなければならないのですが,

残業代を支払っていない会社はたくさんあります。

 

 

長時間労働をしているのに

残業代が支払われていないのはおかしいと思ったなら,

まずは,自分が1日何時間働いていたのかをチェックします。

 

 

自分が1日何時間働いていたのかを

チェックするには,タイムカードが最も便利です。

 

 

 

 

タイムカードに始業時刻と終業時刻が

正確に打刻されているのであれば,

労働時間を証明することができます。

 

 

平成29年1月20日に公表された,

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき

措置に関するガイドラインにおいて

会社は,タイムカードなどで,

労働者の労働時間を適正に把握しなければならない

ことが規定されています。

 

しかし,地方の中小企業では,タイムカードがなく,

労働時間を全く把握していないところも多いのが現状です。

 

 

まだまだ,労働時間の把握義務が守られていないのです。

 

 

それでは,タイムカードがない場合に,

どうやって労働時間を証明すればいいのでしょうか。

 

 

タイムカードがなくても,

他に労働時間が記録されているものがあれば,

それを使って労働時間を証明していきます。

 

 

本日は,シフト表を使って労働時間が証明された

岡山地裁平成19年3月27日判決を紹介します。

(セントラルパーク事件・労働判例941号23頁)

 

 

 

 

この事件は,ホテルの料理長が未払い残業代を請求したものです。

 

 

原告の料理長が,料理人の意向を確認して,

自らの判断でシフト表を作成しており,

シフト表の作成にあたり,経営陣に相談したり,

了承をえたりはしていませんでした。

 

 

タイムカードのように時間が記録される

客観的な証拠ではなく,

原告の料理長が自分で作成したシフト表という,

やや主観的な証拠であっても,

労働時間を証明するための証拠として

十分であると判断されました。

 

 

さらに,被告会社は,労働時間を客観的に記録,

把握する仕組みを設けておらず,

労働時間の適正な把握という使用者の

基本的な責務を果たしていないと評価すほかない

として,未払い残業代と同額の付加金の支払いが命じられました。

 

 

付加金とは,残業代を支払わない会社に対して,

支払いが命じられることがある一種の制裁です。

 

 

ようするに,会社は,タイムカードなどで

労働時間を適正に把握していないと,

未払い残業代以外にも,付加金という

制裁を受けるリスクがあるのです。

 

 

タイムカードがなくても,

他にシフト表などの労働時間を証明できる証拠

がないかと知恵を絞ることで,

未払い残業代を請求する突破口がみつかることがあるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から給料を減額したいと言われたときの対処法

ある日,突然,会社の管理職から

「給料を下げたい」という話があったとします。

 

 

突然のことに驚き,管理職に対して,

給料減額の理由を尋ねても,管理職は,

あいまいなことしか言わず,

給料減額の理由はよくわかりません。

 

 

そのうち,給料減額に同意することのサインを求められました。

 

 

 

 

このように,会社から,給料減額の話があった場合,

労働者は,どのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

労働者としては,会社からもらう給料で生活しているので,

給料が減額されれば,生活が苦しくなるので,当然に反対したいです。

 

 

しかし,今後も会社に勤めたいのに,

会社からの要望を断ったのでは,

不利益な取扱を受けるのではないかと不安になります。

 

 

そこで,本日は,このような場合の対処法について説明します。

 

 

まず,一度決められている給料を減額することは,

労働条件を変更することを意味します。

 

 

 

 

労働契約法8条において,労働条件を変更するには,

労働者と会社の合意が必要である,と規定されています。

 

 

このように,労働条件を変更するには,

労働者の同意が必要になるのが大原則なのです。

 

 

次に,この労働者の同意があったと認定されるのは

どのような場合なのか,について検討します。

 

 

会社から十分な説明を受けられないうちに,

よく分からないまま,給料の減額に合意してしまった場合,

給料の減額に労働者が同意したのかが問題になります。

 

 

労働者の同意の有無について,重要な最高裁判決があります。

 

 

最高裁平成28年2月19日判決の山梨県民信用組合事件です。

 

 

この判決では,労働者は,会社の指揮命令に従う立場にあり,

自分の意思決定のための情報を収集する能力に限界があることから,

賃金や退職金についての労働条件の変更の場合,

労働者の同意の有無についての判断は

慎重にされなければならないと判断されました。

 

 

そして,労働条件の変更による労働者の不利益の内容及び程度,

労働者が同意をするに至った経緯及びその態様,

労働者への情報提供または説明の内容を考慮して,

労働者の自由な意思に基づいてされたものと

認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点から,労働者の同意の有無を判断することになります。

 

 

そのため,会社が給料減額の理由を明確に労働者に説明して,

労働者が給料減額の不利益を十分に理解して,

給料減額に同意したのではない限り,

形式的に同意書にサインしただけでは,

給料減額についての労働者の同意は無効になるのです。

 

 

 

 

地方の中小企業では,ここまで丁寧に,

労働者の同意を取り付けていることはほとんどないので,

仮に,給料の減額についての同意書にサインしても,

あきらめずに,給料の減額を争う道はあります。

 

 

まとめますと,会社から給料の減額を持ちかけられたときには,

会社に説明を求めて,納得できないのであれば,

断固として給料の減額に同意しないことです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高プロを会社に導入させないためには

10月31日,厚生労働省は,

高度プロフェッショナル制度(以下,「高プロ」といいます)

の対象業務の素案を公表すると共に,

高プロの導入手続について,

詳細な素案を公表しました。

 

 

本日は,高プロの導入手続について,解説します。

 

 

このブログで何度も指摘してきましたが,

高プロとは,労働時間の規制が撤廃されてしまい,

どれだけ働いても残業代がゼロになるという制度です。

 

 

 

 

どれだけ働いても残業代ゼロになるので,

会社は,労働者を働かせ放題にできてしまうので,

高プロは,過労死を助長するとして

猛烈な批判を受けながらも成立してしまった,

ブラックな制度です。

 

 

高プロの導入によってメリットがある

労働者はほとんどいないと考えられます。

 

 

そこで,成立してしまった高プロを

いかに利用させないかが重要になります。

 

 

今回,厚生労働省から公表された素案を検討したところ,

高プロの導入を阻止することは十分に可能だと思いました。

 

 

高プロの導入手続は次の5つのステップにわかれます。

 

 

①労使委員会を設置する

②労使委員会で決議する

③決議を労働基準監督署に届け出る

④対象労働者の同意を書面で得る

⑤対象労働者を対象業務に就かせる

 

 

まず,ステップ①の労使委員会ですが,

委員の半数を,労働組合または労働者の過半数代表者が指名できます。

 

 

 

 

労働者にとって有利な決議をしてくれる

委員を送り込むことができるのです。

 

 

労使委員会において,会社の意見に流されずに,

労働者の利益をしっかりと代弁できる委員を

指名することが重要になります。

 

 

次に,ステップ②では,労使委員会において,

対象業務や対象労働者の範囲,

対象労働者の健康確保措置などを決議します。

 

 

労使委員会の決議は,5分の4以上の多数

による決議がなければ有効になりません。

 

 

ステップ①で,労働者の意見を代弁してくれる

委員が半数選任されていれば,労使委員会の決議で,

高プロの導入に反対の意見を示すことができて,

5分の4以上の賛成には届かず,

高プロが導入されないことになります。

 

 

労働組合は,労使委員会で高プロにしっかりと反対すべきです。

 

 

高プロの手続の要件からすれば,

労働組合が反対すれば,

高プロの導入を阻止できるのです。

 

 

労働組合が,安易に高プロに賛成したのであれば,

その労働組合は,ブラック労働組合という

烙印を押される危険があるので,気をつけてください。

 

 

仮に,労使委員会において高プロの導入が決議されても,

ステップ④において,対象労働者が同意しなければ,

その労働者には,高プロは適用されません。

 

 

会社は,対象労働者の同意を得るために,

対象労働者に対して,高プロの制度の概要や

労使委員会の決議の内容,

同意した場合の賃金や評価制度について,

しっかり説明した上で,同意を得る必要があります。

 

 

労働者は,同意しなくても,

不利益な取扱を受けないので,

会社の説明に納得できなければ,

勇気をもって,同意をしないでください。

 

 

 

 

また,同意をしてしまっても,

後から同意を撤回できますし,

同意を撤回しても,

不利益な取扱を受けることはありません。

 

 

このように,高プロを導入するためには,

会社は厳しい要件を満たす必要がありますので,

労働組合や労働者は,安易に高プロが導入されないように,

明確に反対してください。

 

 

高プロを導入しようとする会社は,

ブラック企業の可能性が高いと肝に銘じてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

15歳の女子生徒と恋に落ちた中学校の男性教師の末路とは・・・

昨日は,TBSのドラマ「中学聖日記」と似たような事件で,

懲戒免職処分を受けた中学校の男性教師の

裁判の続きについて書きます。

 

 

この裁判では,原告の中学校の男性教師には,

懲戒理由が認められるのですが,懲戒処分の中で

一番重たい懲戒免職処分を課してもいいのかが争点となりました。

 

 

公務員に対する懲戒処分の審査は,

民間企業の場合とやや異なる点がありますので,説明します。

 

 

民間企業の場合,労働者と会社が,双方合意の上で

労働契約を締結して,労働者は,会社に

労務を提供する代わりに賃金を支払ってもらう

という法律関係が始まります。

 

 

他方,地方公務員の場合,労働契約と異なり,

地方公共団体の任命権者から特定の職につけられる

任用という行政行為によって,法律関係が始まります。

 

 

 

 

行政行為とは,行政庁が法律に基づき,

公権力の行使として,直接・具体的に

国民の権利義務を規律する行為です。

 

 

契約は,対等な人同士が自由に決めて合意するのですが,

行政行為は,行政庁が一方的に決めたことに拘束されるというものです。

 

 

公務員の労働関係は,このような任用という行政行為

で成り立っているので,公務員の懲戒処分の審査基準も,

民間企業と比べると,やや異なっています。

 

 

公務員の懲戒処分の審査基準として,

神戸税関事件の最高裁昭和52年12月20日判決が有名です。

 

 

この最高裁判決では,公務員に対して

どのような懲戒処分を行うかは,

任命権者の裁量に委ねられていますが,

懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠き,

裁量権を付与した目的を逸脱した場合には,

裁量権を濫用したものとして違法になります。

 

 

ようするに,地方公共団体などに懲戒処分の

裁量が認められているけれども,

懲戒処分が重すぎたり,不当な目的で

懲戒処分をした場合には違法になるということです。

 

 

もっとも,この審査基準は抽象的ですので,

問題行為の動機,態様,結果,

故意または過失の程度,

職員の職責,

他の職員及び社会に与える影響,

過去の問題行為の有無,

日頃の勤務態度,

問題行為後の対応

などを総合考慮して,この審査基準にあてはまるかを検討します。

 

 

本件事件では,15歳の女子生徒が交際を

積極的に望んでおり,原告の男性教師は,

真剣に交際しており,自分の性的欲求を

満たすために問題行為をしたわけではないと認定されました。

 

 

 

 

また,原告の男性教師は,15歳の女子生徒を

自宅アパートに泊めるなどして,

保護者の監護権を侵害したのですが,

アパートに宿泊させた日以外は女子生徒を

遅くない時間に帰宅させていました。

 

 

原告の男性教師は,キスや抱擁以外の

性的な行為に及んでいないので,

わいせつ性は低く,

問題行為の態様が著しく悪質ではないと認定されました。

 

 

そのため,女子生徒が原告の男性教師によって

健全な育成を妨げられるような

心身の傷を負ったことにはならないと判断されました。

 

 

加えて,原告の男性教師の勤務態度が誠実であり,

問題行為が発覚後に,原告の男性教師が

保護者に誠意をもって謝罪し,

女子生徒と一切連絡をとっていないことから,

真摯に反省していると認定されました。

 

 

 

 

以上より,原告の男性教師に対する懲戒免職処分は,

社会観念上著しく妥当性を欠き,埼玉県教育委員会は,

裁量権の範囲を逸脱して,これを濫用したと判断され,

懲戒免職処分が取り消されました。

 

 

原告の男性教師が,新米教師ではなく,中間管理職であったり,

女子生徒と性行為に及んでいれば,結論は異なった可能性があります。

 

 

原告の男性教師と15歳の女子生徒の純粋な恋愛だったことから,

裁判所は,懲戒免職処分は重すぎると判断したのかもしれません。

 

 

このように,懲戒処分は,重すぎた場合に,

無効になる可能性があるので,懲戒処分を受けた労働者は,

懲戒処分が重すぎないか検討する必要があります。

 

 

ドラマ「中学聖日記」でも裁判に発展していくのでしょうか。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

リアル中学聖日記~恋に落ちた男性教師の懲戒免職処分取消訴訟~

現在,TBSで,毎週火曜日に「中学聖日記

というドラマが放送されています。

 

 

私は,普段テレビを見ないため,

実際にこのドラマを見ていないのですが,

新聞のテレビ欄などに目をとおしていると,

だいたいのあらすじがなんとなくわかります。

 

 

新聞のテレビ欄を見ている限り,

このドラマは,中学校の女性教師と男子中学生が

恋に落ちるというストーリーなのだと理解しています。

 

 

TBSの公式サイトには,次のようにストーリーが紹介されています。

 

 

物語の舞台は片田舎の中学校。

自分を大切に想ってくれる年上の婚約者がいながらも、

勤務先の学校で出会った不思議な魅力を持つ

10歳年下の中学生・黒岩晶に心惹かれていく

女教師・末永聖の“禁断の恋”を、

儚くも美しく描くヒューマンラブストーリーだ。

中学聖日記公式サイトより)

 

 

「本当に,こんな話あるんかな~」

 

 

そう思っていたら,実際に似たような話がありました。

 

 

しかも,「判例時報」という法律関係者しか読まない判例雑誌に(笑)

 

 

(判例時報)

 

 

判例時報とは,B4サイズの紙面に4段に分かれて

細かく裁判例が紹介されている雑誌でして,

一般の方が見ることはまずないです。

 

 

(判例時報の中はこんな感じになっています)

 

 

そのような判例雑誌に,中学校の男性教師が

15歳の女子生徒と交際していたことを理由に

懲戒免職処分をされたのですが,

この男性教師が懲戒免職処分を不服として争ったところ,

懲戒免職処分が取り消されたという

裁判例が紹介されていたのです。

 

 

「中学聖日記」とは,先生と生徒で性別が逆になっていたり,

15歳の女子生徒が直接の教え子ではないという

相違点があるものの,中学校の先生が未成年の生徒と

恋に落ちるという点では共通しています。

 

 

それでは,男性教師の懲戒免職処分が取り消された,

さいたま地裁平成29年11月24日判決

(判例時報2373号29頁)

について解説していきます。

 

 

原告の男性教師は,大学を卒業後,

大学時代に講師としてアルバイトをしていた

学習塾の教え子の15歳の女子生徒と交際を開始しました。

 

 

 

 

15歳の女子生徒から,原告の男性教師に交際を申し込んできました。

 

 

原告の男性教師は,中学校の教員になった後も,

15歳の女子生徒の保護者に承諾を得ないまま,

交際を継続し,自分のアパートや

2人ででかけた先でキスや抱擁をし,

女子生徒をアパートに宿泊させて同じベッドで寝るなどしました。

 

 

ただし,原告の男性教師は,15歳の女子生徒と

性行為はしていませんでした。

 

 

この女子生徒との交際が女子生徒の保護者に発覚し,

原告の男性教師は,保護者に謝罪し,

女子生徒との交際を解消しました。

 

 

以上の原告の男性教師の行為が,

地方公務員法33条の信用失墜行為の禁止に違反し,

地方公務員法29条1項1号の地方公務員法違反と

同3号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」

に該当するとして,懲戒免職処分を受けました。

 

 

埼玉県青少年健全育成条例では,

「何人も,青少年に対し,淫らな性行為又は

わいせつな行為をしてはならない」と規定されており,

これに違反した者は,1年以下の懲役または

50万円以下の罰金に処せられます。

 

 

埼玉県教育委員会作成の懲戒処分の基準には,

「18歳未満の者に対して,みだらな性行為又は

わいせつな行為をした職員は,免職又は定職とする」

と規定されています。

 

 

これらの法律関係からすれば,原告の男性教師には

懲戒理由があることになります。

 

 

しかし,原告の男性教師に懲戒理由があるからといって,

いきなり,公務員の懲戒処分の中で最も重たい処分である

懲戒免職処分を課してもいいのかという問題があります。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降掲載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働事件の解決事例~方便的な解雇の撤回は認められません~

クライアントは,貨物自動車運送業を営む会社

において配車係をしていました。

 

 

ある日突然,クライアントは,社長から解雇通告を受けました。

 

 

 

 

クライアントは,突然の解雇に驚き,

社長に対して,解雇理由を聞きましたが,

社長は,あいまいなことしか言わず,

解雇理由はよく分からないままでした。

 

 

クライアントは,納得がいかず,

まずは労働基準監督署へ相談にいきました。

 

 

労働基準監督署では,会社から解雇通知書と退職証明書

をもらうように,アドバイスを受けました。

 

 

 

 

労働基準監督署のアドバイスに従い,

クライアントは,社長に対して,

解雇通知書と退職証明書の交付を求めたところ,

社長は,行政に言わないのであれば,交付しますと言いました。

 

 

会社から,交付された解雇通知書には,

解雇理由として「会社都合」としか記載されていませんでした。

 

 

会社の解雇理由に納得できないクライアントは,

当事務所へ相談にいらっしゃいました。

 

 

クライアントの話を聞いていると,解雇以外にも,

長時間労働にもかかわらず,

残業代が支払われていないことがわかりました。

 

 

しかし,会社は,タイムカードで労働時間の管理をしていませんでした。

 

 

クライアントは,デスクトップのパソコンで,

配車管理をしていたので,パソコンのログインとログオフ

の時間が分かれば,タイムカードがなくても

労働時間を証明できると考え,まずは,証拠保全を行いました。

 

 

 

 

証拠保全とは,裁判官と一緒に相手方の職場へ訪問し,

証拠を確保する手続きです。

 

 

クライアントが解雇されてから,

2ヶ月ほどしか経っていなかったので,

パソコンのログデータが保存されていると思われたのですが,

証拠保全をしたところ,クライアントが使用していた

パソコンのOSがアップデートされていて,

ログデータが全て消去されていたのです。

 

 

クライアントが働いていた期間のログデータを

入手することができなかったのですが,クライアントは,

解雇前3ヶ月間の土日のパソコンのログデータを

スマートフォンのカメラで撮影して保存していたので,

そのログデータをもとに,平均の労働時間を算出して,

残業代を計算しました。

 

 

そして,会社には,タイムカード等で労働時間の管理をする

労働時間把握義務があるのですが,相手方は,

それを怠っているので,平均の労働時間で

残業代が認められるべきだという主張をしました。

 

 

また,相手方に対して,解雇が無効であることを

内容証明郵便で通知したところ,相手方は,

あっさりと解雇を撤回して,職場に復帰するように求めてきました。

 

 

しかし,相手方の主張する職場復帰の条件が,

クライアントを配車係から一般事務へ配置転換して,

給料を解雇前から約8万円減額させるというもので,

到底クライアントが受け入れられる条件ではありませんでした。

 

 

そこで,相手方の方便的な解雇撤回は認められず,

解雇によって破壊された信頼関係が回復していないことを理由に,

相手方が解雇を撤回しても,クライアントは,

未払い賃金を請求できると主張しました。

 

 

結果として,労働審判の第1回期日で調停が成立し,

相手方から,約1年分の給料に相当する解決金

を支払ってもらうことで解決しました。

 

 

 

 

最近,会社は,解雇が無効になる可能性があると,

方便的に解雇を撤回して,復職を求めてくることがありますが,

信頼関係が回復されていないのであれば,

復職しなくても,未払い賃金を請求できるときがあります。

 

 

また,タイムカードがなくても,

あきらめずに証拠を探し出すことで,

未払い残業代が認められることがあります。

 

 

労働者にとって不利な状況であっても,

あきらめずに対応した結果,

労働者が納得できる解決が実現した事例として紹介します。

高プロの対象業務とは?

厚生労働省が,10月31日に,

高度プロフェッショナル制度(「高プロ」といいます)

の具体的な対象業務の素案を公表しました。

 

 

高プロが適用される労働者は,

労働基準法で定められている労働時間の規制が

適用されなくなる結果,どれだけ働いても残業代がゼロになります。

 

 

 

 

そのため,働き方改革関連法の中で,

「残業代ゼロ法案」,「過労死促進法案」などと

度重なる批判をされながらも,成立してしまった残念な制度です。

 

 

働き方改革関連法では,高プロの対象となる業務として,

高度の専門的知識等を必要とし,その性質上

従事した時間と従事して得た成果との関連性が

通常高くないと認められる業務」と定められました。

 

 

しかし,この法律の文言を見ても,

どのような業務が高プロの対象になるのかが,

さっぱり分かりません。

 

 

 

 

法律の文言が抽象的ですと,拡大解釈されるおそれがあり,

対象となる業務が今後拡大していく可能性があります。

 

 

さらに,対象業務を法律ではなく,

省令で決めることになるので,国会審議を経ずに,

厚生労働省が国民の監視が届かないところで

決めてしまうおそれもあります。

 

 

このように,高プロは欠陥だらけなのですが,

ようやく具体的な対象業務が明らかになりました。

 

 

高プロの対象業務は,次の5つです。

 

 

①金融商品の開発業務

 ②金融商品のディーリング業務

 ③アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)

 ④コンサルタントの業務

(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)

 ⑤研究開発業務

 

 

この5つの業務であっても,

対象になりえる業務と対象にならない業務

の具体例も公表されました。

 

 

①金融商品の開発業務では,

金融工学や統計学の知識を用いた

新たな金融商品の開発業務は対象になりえて,

金融サービスの企画立案や

データの入力・整理の業務は対象にならないとされました。

 

 

②金融商品のディーリング業務では,

資産運用会社のファンドマネージャーやトレーダーの業務,

自社の資金で株式や債券の売買をする業務は対象になりえて,

投資判断を伴わない顧客からの注文の取次や

金融機関の窓口業務は対象にならないとされました。

 

 

 

 

③アナリストの業務では,

運用担当者に対し有価証券の投資に関する

助言を行う業務は対象になりえて,

一定の時間を設定して行う相談業務や

分析のためのデータ入力・整理を行う業務は

対象にならないとされました。

 

 

④コンサルタントの業務では,

業務改革案などを提案してその実現に向けて

アドバイスや支援をしていく業務は対象になりえて,

個人顧客を対象とする助言の業務は

対象にならないとされました。

 

 

⑤研究開発業務では,

新型モデル・サービスの開発の業務は対象になりえて,

既存の商品やサービスにとどまり,

技術的改善を伴わない業務は対象にならないとされました。

 

 

 

 

ある程度,対象業務が具体的になりましたが,

それでも,あいまいな点が残っています。

 

 

一般的には5つの業務の範疇に入っていても,

会社から労働時間に関する具体的な指示がされていれば

対象業務になりませんし,単純な作業も対象業務になりません。

 

 

高プロが導入されそうな場合には,

自分の仕事が5つの対象業務に含まれるのかを

注意深く検討する必要があります。

 

 

高プロの対象業務をなるべく狭くして,

高プロによって過労死する労働者がでないようにしたいものです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ブログを半年書き続けて得た気づき

今年の5月に,私のブログの師匠である板坂裕治郎師匠

のブログセミナーに参加して以降,

毎日ブログを書き続けるようになり,

気がづけば6ヶ月が経過しようとしています。

 

 

昨日,京都において,6ヶ月間ブログを書き続けてきた,

石川のブログセミナーの仲間と

京都のブログセミナーの仲間との合同の

フォローアップセミナーに参加してきました。

 

 

(昨日の板坂裕治郎師匠)

 

 

本日は,6ヶ月間ブログを毎日書き続けて得られた気づきと,

昨日のフォローアップセミナーのアウトプットをします。

 

 

ブログを6ヶ月毎日書き続けたことで,

書くことが苦にならなくなりました。

 

 

私は,板坂裕治郎師匠と出会う前は,

1週間に1~2回の頻度でブログを更新していたのですが,

その当時はブログを書こうとすると何か負担を感じていました。

 

 

毎日ブログを書いていると,歯磨きと一緒で

習慣化してしまっているので,以前あった負担感がなくなりました。

 

 

また,毎日ブログを書くためには,

ネタが必要になるわけですが,

新聞,雑誌,テレビ,ネットニュースなどを見る時に,

何かネタになるものはないかと

アンテナをはって見るようになります

 

 

 

 

すると,不思議なことに,ブログに書けるネタが

目に飛び込んでくるようになりました。

 

 

そのネタから,読者に役立つ労働問題の情報発信に

つなげるために,文献を調べたり,裁判例を検討するので,

労働法の専門知識が深まりました。

 

 

そして何より,私のブログを読んでいただいた読者から,

ブログの内容が「役に立ちます」,「勉強になりました」

というお声をいただけるようになったのが,とても嬉しいです。

 

 

特に,私のクライアントから,

「ブログ見てますよ。楽しみにしています」

と言われたときは,ブログを毎日書いてきて

本当によかったと心底思いました。

 

 

 

 

さて,昨日のフォローアップセミナーでは,

板坂裕治郎師匠から,読者に優しいブログの書き方

を教えてもらいました。

 

 

具体的には,①リンクをはるときは,URLを短くして,

青色にして,アンダーラインをひいて,

別ページにとばすようにする,

 

②横で撮った写真を掲載する,

 

③文章を読ませる前に見せる必要があり,

1つの文体を60文字程度で3行にする

 

などのスキルを学びました。

 

 

そして,セミナーのワークの中で,

自分のとっての強みとは何かを真剣に考えました。

 

 

強みとは,1番ではないものを捨てて残った,

自分にしかできないことです。

 

 

自分の過去の経験から導かれるストーリーと

一緒に強みを語ることで,自分の熱い思いが,

理想客に伝わり,理想客は,

あなたから買わせてほしいと言ってくるのです。

 

 

このような頭を下げずに売れる仕組みができれば,

売上に追われることがなくなり,

ゆくゆくは業界のオピニオンリーダーになれるのです。

 

 

毎日ブログを書き続ける仲間との絆が深まり,

板坂裕治郎師匠から勇気をもらいましたので,

毎日ブログを書き続ける決意を新たにしました。

 

 

今後とも,働く人がトラブルに巻き込まれないための

役立つ情報を発信して,労働トラブルを

未然に防ぐという使命を実現していきます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

教員にはなぜ残業代が支払われないのか?

埼玉県内の市立小学校の59歳の男性教員が,

教員の時間外労働に対して残業代が支払われていないのは違法だとして,

残業代の支払いを求めて,さいたま地裁に提訴しました。

 

 

原告の教員は,教員を働かせ放題にさせている現状が許せず,

このままでは次世代の教員に引き継げないという覚悟のもと,

提訴にふみきったようです。

 

 

このブログで以前説明しましたが,教員は,

「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」

(給特法といいます)によって,残業については,

他の公務員とは異なる取扱をうけています。

 

 

 

すなわち,教員には,修学旅行や遠足などの学校外の教育活動や,

家庭訪問や学校外の自己研修など教員個人での活動,

夏休みなどの長期の学校休業期間という

勤務態様の特殊性を踏まえて,給特法により,

教員には,残業代が支給されず,その代わりに,

給料月額の4%に相当する教職調整額が支給されます。

 

 

教員以外の一般の地方公務員は,時間外労働をした場合に,

残業代が支払われるのですが,地方公務員の中で教員だけが,

残業代が支払われず,4%の教職調整額が支給されているのです。

 

 

この4%の教職調整額ですが,昭和41年の教員の勤務状況調査

の結果を踏まえて,超過勤務時間相当分として

算定されたものが,今でも適用されているのです。

 

 

このように,給特法によって,教員は,どれだけ働いても,

4%の教職調整額が支給される以外に

残業代が支払われないという不合理な状況にあるのです。

 

 

過去の裁判では,給特法においても,教員の

「自由意思を極めて強く拘束」し,「常態化している」時間外労働

についてのみ,残業代が支払われるという非常に狭い基準

が示されましたが,結論として,教員の残業代請求は退けられています。

 

 

しかし,この給特法は,現代の教員の働き方に全く適合していません。

 

 

先日公表された今年の過労死白書によりますと,

教員の1日あたりの平均勤務時間は11時間17分です。

 

 

1日8時間を超える時間が残業になるので,

教員は毎日3時間近く残業していることになります。

 

 

さらに,教員は,部活動などで休日も働いていますので,

1ヶ月の時間外労働が過労死ラインである80時間を超えて

働いている方が多いと考えられ,実際,他の業種と比較しても,

荷重労働によって過労死や過労自殺する教員は多いです。

 

 

 

 

教員は,朝早くに出勤して,登校してくる生徒の見守りや,

授業の準備,部活動,保護者対応など,

仕事が多く,長時間労働になっていまうのです。

 

 

仕事内容が変わらないまま,

管理職から早く帰るように指示されても,

自宅での持ち帰り残業が増えるだけで,

何の解決にもなりません。

 

 

給特法によって,残業代が支払われないために,

教員が働かされ放題になり,長時間労働が蔓延しているのです。

 

 

給特法を廃止して,働いた時間分の残業代が支払われるようになれば,

自治体や教育委員会は,残業代増加による人件費の増加に危機感を覚えて,

長時間労働を是正するための抜本的な対策を考えざるをえなくなります。

 

 

残業代の支払いには,使用者に対して,

長時間労働を抑制させる機能がありますので,

給特法を廃止して,適正な残業代が支払われるようにして,

教員の長時間労働に歯止めをかけるべきだと思います。

 

 

さいたま地裁の裁判がきっかけとなり,

給特法を廃止する流れになることを期待したいです。

 

 

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