配置転換が有効かを判断するためのメルクマールとは
会社から,勤務場所を変更する転勤をすすめられましたが,
親の介護を理由に辞退したところ,同じ勤務場所において,
事務職から力仕事を必要とする業務に配置転換されました。
事務職から力仕事を必要とする業務への配置転換が
有効か否かについて解説します。
会社が労働者を配置転換するには,
次の3つの要件を満たす必要があります。
①労働契約上,配置転換の根拠があり,その範囲内であること
②法令違反がないこと
③権利濫用ではないこと
まず,①労働契約上,配置転換の根拠があり,
当該配置転換がその配置転換の範囲内であることが必要です。
通常,会社の就業規則には,
「会社は業務上の必要がある場合,配置転換を命じることができる」
と規定されていることが多く,この規定を根拠に
配置転換がなされるのであれば,①の要件は満たされます。
他方,会社の就業規則に,配置転換の根拠規定が全くない場合には,
そもそも配置転換について,労働契約上の
根拠がないとして無効となります。
また,労働契約において,仕事内容が限定されていたり,
働く場所が限定されている場合(職種・勤務地限定契約といいます),
その限定された仕事内容や働く場所が配置転換の範囲となり,
会社は,限定された仕事内容や働く場所の範囲を超えて,
労働者を配置転換できないことになります。
労働者としては,まずは会社の就業規則をチェックして,
配置転換についての規定がないか,
配置転換の規定があっても,
労働契約で職種・勤務地が限定されていないかをチェックするべきです。
会社の就業規則に配置転換の規定があり,
職種・勤務地限定がない場合,
次に②当該配置転換が法令に違反していないかを検討します。
法令違反の配置転換とは,具体的に,
配置転換が組合活動の妨害を目的としていたり,
男女差別に基づく配置転換などの場合です。
もっとも,このような露骨な法令違反の配置転換はあまりありません。
最後に,③当該配置転換が権利濫用ではないことが必要となります。
権利の濫用となる配置転換は無効となります(労働契約法3条5項)。
どのような場合に,配置転換が権利の濫用になるかは,
次の5つのメルクマールを総合判断して決められます。
ア 当該人員配置の変更を行う業務上の必要性
イ 人員選択の合理性
ウ 配置転換が他の不当な動機・目的をもってなされているか否か
エ 当該配置転換が労働者に通常甘受すべき程度を
著しく超える不利益を負わせるものか否か
オ 配置転換についての説明や誠実な対応がなされたか
裁判例では,アの業務上の必要性は容易に認められる傾向にあり,
業務上の必要性が認められれば,
イの人員選択の合理性も認められやすいです。
ウの他の不当な動機・目的については,
それほど露骨な嫌がらせ目的で配置転換がされることは多くありません。
そこで,裁判で主戦場になるのは,エとオになります。
最近は,介護離職が社会問題になっていることもあり,
ワークライフバランスの観点から,
転居を伴う遠隔地への転勤などは,厳しく判断されます。
また,最近の裁判例では,配置転換の理由の説明や
配置転換に伴う利害得失を判断するために,
会社が労働者に必要な情報を提供するなど
適正な手続きをとることを求めています。
さて,介護を理由に転勤がなくなり,
同じ職場で事務職から力仕事に配置転換された場合,
職種限定がないのであれば,
その配置転換に応じざるをえないと考えられます。
そして,力仕事の人員が不足しているなどの業務上の必要性があり,
嫌がらせ目的がなく,同じ職場内で労働者に不利益があまりない
のであれば,配置転換は有効と判断される可能性が高いです。
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