親会社に対してセクハラの損害賠償請求できる場合とは

勤務先の子会社においてセクハラを受けた場合,

セクハラの被害者は,その子会社のグループ企業内の親会社に対して

損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

 

本日は,子会社におけるセクハラの被害者が,

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求をしたイビデン事件

(最高裁平成30年2月15日判決・労働判例1181号5頁)

について解説します。

 

 

 

セクハラの被害者の女性労働者は,

イビデンキャリア・テクノという会社の契約社員でした。

 

 

被害者は,イビデンキャリア・テクノの親会社である

イビデンの事業場で働いていました。

 

 

被害者が親会社のイビデンの事業場で働いているときに,

同じ事業場で働いていた他の子会社であるイビデン建装の

正社員である加害者の男性労働者と交際をしていました。

 

 

しかし,被害者が加害者に対して,交際を解消したいと

申し出ましたが,加害者は交際を諦めきれず,

被害者に対して,繰り返し交際を要求し,

被害者の自宅に押しかけるなどのセクハラ行為をしました。

 

 

 

 

被害者は,勤務先の上司に,加害者の行為をやめるように

注意してほしいと相談しましたが,その上司は,朝礼の際に,

「ストーカーやつきまといをしているやつがいるようだが,やめるように」

などと発言しただけで,それ以上の対応はしませんでした。

 

 

その後も,加害者のセクハラ行為は止まらなかったため,

被害者は,イビデンキャリア・テクノを退職し,

イビデンの別の事業場で働きました。

 

 

被害者が退職した後も,加害者は,被害者の自宅付近で

自動車を停車させていたことがあり,

被害者から相談を受けていた同僚が心配して,

イビデンの相談窓口に対して,

事実確認をしてほしいという申し出をしました。

 

 

イビデンは,加害者などから聞き取り調査をしましたが,

イビデンキャリア・テクノから,申し出に関する事実は存在しない

という報告を受けて,被害者に対して事実確認を行わずに,

被害者の同僚に対して,申し出にかかる事実は

確認できなかったことを伝えました。

 

 

なお,イビデンのグループ企業では,

法令を遵守する体制を整備し,

グループ企業で働く労働者が法令遵守に関して

相談するための相談窓口を設けていました。

 

 

以上の事実関係において,加害者に対するセクハラの

損害賠償請求が認められ,被害者の勤務先である

イビデンキャリア・テクノに対して,

就業環境に関して労働者からの相談に応じて

適切に対応すべき義務を怠ったとして,

損害賠償請求が認められました。

 

 

これに対し,親会社であるイビデンの損害賠償請求については,

控訴審の名古屋高裁は,法令遵守についての相談窓口を

整備していたことから,グループ企業の全従業員に対して,

直接またはその所属する各会社をつうじて

相応の措置を講ずべき義務を負うとして,

損害賠償請求を認めましたが,

最高裁は,イビデンに対する損害賠償請求を認めませんでした。

 

 

最高裁は,親会社であるイビデンは,

被害者に対して指揮監督権を行使する立場になく,

被害者から労働の提供を受ける立場にもなかったことから,

子会社であるイビデンキャリア・テクノが

義務違反をしたからといって,そのことだけで

イビデンの義務違反があったことにはならないと判断しました。

 

 

また,被害者がイビデンの相談窓口に直接申し出をしたなら,

適切に対応すべき義務がありますが,本件事実関係のもとにおいて,

被害者の同僚が相談窓口へ申し出をした場合にまで,

イビデンが,被害者に事実確認をしなかったとしても,

損害賠償責任を負うものではないと判断しました。

 

 

本件では,親会社の責任は否定されましたが,

被害者が直接,親会社の相談窓口へ相談したのに,

親会社が何もしなかった場合,

親会社もセクハラの損害賠償責任を負う可能性があります

 

 

 

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求ができるのは

どのような場合かについて,検討をする際に

参考になる裁判例として紹介させていただきました。