経歴詐称による解雇が有効になるには
私立高校の数学の教師が経歴詐称を理由に解雇された事件がありました
(東京高裁平成29年10月18日判決
学校法人D学園事件・労働判例1176号18頁)。
経歴詐称といえば,数年前に,
報道ステーションのコメンテーターをしていた
ショーン・マクアードル・川上氏の問題が有名です。
本日は,経歴詐称の解雇がどのような場合に
有効になるのかについて説明します。
まず,被告の学校法人の就業規則には,解雇事由として,
「採用に関し提出する書類に重大な虚偽の申告があったとき」
と記載されていました。
この就業規則の記載をどのように解釈するかが問題となります。
ここで,解雇とは,労働者の働く機会を一方的に奪うものであり,
労働者は,解雇されると,収入源を失い,生活が苦しくなることから,
解雇は,そう簡単にできず,厳しい要件を満たす必要があります。
そこで,労働者を解雇できる理由である経歴詐称とは,
今後の雇用契約の継続を不可能とするほどに会社との信頼関係を
大きく破壊するに足る重大な経歴を詐称した場合に限定されます。
本件においては,原告の数学教師が提出した履歴書に記載されていた
「中学校バレーボールコーチ勤務」という職歴が
虚偽であると問題になりました。
原告の数学教師は,外部指導者としてバレーボールコーチ
として雇用されていたわけではなく,個人的に依頼されて
コーチ業務のお手伝いをしていただけなので,
「中学校バレーボールコーチ勤務」との記載は,
事実と異なる点がありました。
しかし,原告がコーチ業務のお手伝いをしていたのは
事実であり,その期間も2ヶ月と短期間でした。
また,原告は,体育教師ではなく数学教師として採用
されているのであり,数学教師としての能力や適格性を判断するのに,
バレーボールコーチの経歴はあまり重視されるものではなく,
原告を採用する際の重大な要素とはなっていませんでした。
そのため,「中学校バレーボール勤務」という虚偽の記載が,
今後の雇用契約の継続を不可能とするほどに
信頼関係を破壊するに足る重大な経歴詐称ではないと判断されました。
もっとも,原告は,他の教師と連携・協力して仕事を進めていく
姿勢に欠けており,上司の注意に対しても反発を繰り返し,
問題行動が改善されておらず,教師という職種のため,
事務職へ配転することができないため,
勤務態度不良による解雇は有効とされてしまいました。
経歴詐称について,その労働者を採用するにあたって重視したポイント
(例えば,数学教師であれば,高卒か大卒か,
大学で数学の研究をしていたか,
他の学校で数学を教えていたか等の学歴や職歴)に詐称がないのであれば,
経歴詐称を根拠に解雇するのは難しいと考えられます。
経歴詐称で解雇された場合には,
会社との信頼関係を大きく破壊するに足る重大な
経歴を詐称したかを検討する必要があります。