東京医科大学の不正入試から労働の男女差別を考える
東京医科大学の入試で,男性受験生に加点して,
女性受験生が不利になる得点操作が行われていた
ことが明らかになりました。
この得点操作は,女性受験生の合格をおさえるのが目的で,
不正入試問題の調査委員会は,
女性というだけで不利な得点調整を行うことは,
もはや女性差別以外の何物でもなく,
断じて許される行為ではないと厳しく批判しています。
東京医科大学は,入試で女性差別をした理由として,
女性は結婚や出産で長時間勤務ができないことをあげています。
当事者の立場にたてば,性別という自分の力では
どうにも変えることができない根源的なことで,
不利益を被るというのは,非常に理不尽であり,
到底納得できず,怒りがこみあげてきます。
この怒りに多くの人が共感し,
東京医科大学の不正入試が大々的な問題
となっているのだと思います。
この男女差別について,労働法の世界では,
雇用機会均等法において禁止されています。
雇用機会均等法は,5条と6条で,
募集・採用から,配置・昇進・降格・教育訓練,福利厚生,
職種・雇用形態の変更,退職勧奨,定年・解雇・雇止めなど,
雇用上の各ステージにおける性別による差別を禁止しています。
に関する規定に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」
において,詳細な男女差別の禁止事項が定められています。
例えば,大学入試と比較的近い,
会社における募集・採用の段階において,
上記の指針では,次のような行為が禁止事項に該当します。
イ 募集又は採用に当たって,その対象から
男女のいずれかを排除すること
ロ 募集又は採用に当たっての条件を男女で異なるものとすること
ハ 採用選考において,能力及び資質の有無等を判断する場合に,
その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること
ニ 募集又は採用に当たって男女のいずれかを優先すること
ホ 求人の内容の説明等募集又は採用に係る情報の提供について,
男女で異なる取扱いをすること
このうち,ハの中には,「募集又は採用に当たって実施する
筆記試験や面接試験の合格基準を男女で異なるものとすること。」
と記載されており,また,ニの中には,
「採用選考に当たって,採用の基準を満たす者の中から
男女のいずれかを優先して採用すること。」と記載されています。
大学の入学試験と会社の入社試験は異なりますが,
大学の入学試験においても,上記の禁止事項は妥当するでしょう。
入社試験で男女差別があり,
労働者に財産的・精神的損害が発生すれば,
会社は,賠償責任を負います。
東京医科大学で,前近代的な男女差別が10年以上も
まかりとおっていたことに驚きますし,
多様性が尊重されるべき現代において,
多くの人の怒りをかうのはもっともなことです。
問題の背景には,医師の長時間労働がありそうです。
女性は出産や育児で長時間働けないから,男性を優遇する。
しかし,労働時間の削減が叫ばれている
現在において,この発想は時代遅れです。
労働時間を削減して成果をあげる労働生産性の向上が重要なのです。
医師の労働時間を減らして,
医師のワークライフバランスが確保できる労働環境が整えば,
女性医師が離職することは減り,女性医師が活躍できるようになります。
そうなれば,東京医科大学のような不正入試をする意味がなくなり,
入試における男女差別が根絶されるのではないかと考えます。
早急に,医師の労働時間を改善していくべきなのです。