不倫~愛と背徳の脳科学~
8月3日に金沢市西倫理法人会で「男女問題と夫婦愛和」
という演題で講話させていただく機会をいただき,
講話の準備のために,脳科学者である中野信子氏の「不倫」
という本を読んだので,アウトプットします。
なぜ不倫はなくらないのか?
この問に対する答えとしては,人間は遺伝子や脳内物質に操られて
不倫してしまうので,人類は一夫一婦制には向いていないようです。
人間が不倫してしまうのには,
①先天的な,特定の遺伝子の働き,
②後天的にかたちづくられた,その人の愛着スタイル,
③周期的,反応的な男女の性ホルモンの働き,
の3つの要因があります。
まず,①先天的な,特定の遺伝子の働きについて説明します。
脳内ホルモンにバソプレシンという物質があります。
バソプレシンは,抗利尿ホルモンとも呼ばれ,
利尿運動を妨げる物質で,体液の流出を阻止したり,
血管を収縮させて血圧を上げる機能があります。
バソプレシンは相手に対する親切心,
セックスに関する情報への感受性などに関係し,
男性が家庭を守るよう動機づける作用もあります。
このバソプレシンの受容体(キャッチャーのようなもので,
外部からの物質や刺激を受け取り,それを情報に変換して
細胞に伝達する機能をもちます)である
AVPRの生成に関連する遺伝子AVPR1Aの
塩基配列の一塩基多型によって
「貞淑型」と「不倫型」に分かれるようです。
ようするに遺伝子の変異によって,
バソプレシンの受容体に変化が生じて,
不倫しやすい人間になるということのようです。
また,脳内物質であるオキシトシンも不倫に影響するようです。
オキシトシンには,恋人や親子を結びつけ,不安を減らし,
リラックスをもたらす作用があり,幸せホルモンと呼ばれています。
オキシトシンは,ソーシャルメモリーという
人間の能力に深く関係しています。
ソーシャルメモリーとは,以前会ったことがある人を認識する能力
と関係し,人間関係の形成を速めるので,
ある個体をほかの個体よりも好むように仕向け,
絆,愛着をつくる働きをします。
このオキシトシンの感受性が遺伝子の変異で違ってくるので,
不倫に影響があるのです。
次に,②後天的にかたちづくられた,その人の愛着スタイル
について説明します。
乳幼児期に母子が相互に愛情を感じ合うことで,子供は,
母親に愛着を形成し,母親を安全基地にして,
自立した行動をとれるようになるのです。
このように母子の愛着が形成されて育った人は,安定型となり,
他者は自分に良いものをもたらす可能性が高いと
考える傾向が高くなり,不倫しにくいのです。
他方,母子の愛着形成が不十分だった回避型や不安型の人は,
愛情を与えてくれる相手がみつかれば,パートナーがいても
愛を求めてその人になびいてしまうので,不倫しやすい傾向があります。
最後に,③周期的,反応的な男女の性ホルモンの働き
について説明します。
女性は,排卵期にテストステロン濃度の高い男性を
セックスの相手として望み,それ以外の時期には
落ち着いていて生活と育児に向いた
長期的なパートナーを探しているようです。
テストステロンとは,男性ホルモンと呼ばれ,
性欲や攻撃性,競争心と直結しています。
他方,男性は,排卵している女性の匂いに触れると
テストステロンが上昇します。
このように,人間の性行動は脳内物質に左右される部分が大きいのです。
不倫をしてしまうのは,遺伝子や脳内物質のしわざであれば,
意思ではコントロールできないので,不倫はなくらないのでしょう。
不倫をすれば,パートナーの信頼を失い,
世間からバッシングを受け,
損害賠償請求の裁判に発展するリスクがあるのに,
不倫がなくならないのは,脳の仕業だとよく分かりました。
不倫の法律相談をするうえで,役立つ知識を得ることができました。