上司からのパワハラを受けて自殺した労働者について,労災が認められた判例

上司からパワハラを受けて労働者が自殺した場合,残された遺族は,絶望に打ちひしがれて途方に暮れてしまいます。しかし,その自殺が労災であったなら,労働者のせいで自殺したのでないことが明らかになり,いくばくかは遺族が救われることがあるかもしれません。

 

阪神高速道路の巡回パトロールの仕事をしていた当時24歳の男性労働者が,上司からのパワハラを苦に自殺したことから,ご両親が,労働基準監督署に対し,遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求しましたが,認められず,行政訴訟を提起しました。1審では,遺族は敗訴しましたが,控訴審で,遺族が勝訴し,労災と認められました(大阪高裁平成29年9月29日判決・阪神高速パトロール事件・労働判例1174号・43頁)

 

被災労働者が上司から受けていたパワハラは次のようなものでした。上司は,空手をしていたため,被災労働者に対して,「道場にこい」と言っていたようです。被災労働者は,「道場にこい」という言葉を,道場にいけば空手を口実に暴力を受けると捉えて,恐れていました。

 

また,被災労働者は,上司から「何もするな言うたやろ,殺すぞ」,「あいつは,もう使い物になりませんわ」,「小学生の作文みたいやな」と発言され,侮辱されました。

 

本件の上司のパワハラは,同じ日に連続的になされたもので,継続的かつ執拗に行われたものではないのですが,控訴審では,心理的負荷の強度は「強」であると判断されました。そして,被災労働者は,上司のパワハラによる強い心理的負荷によって,自殺の直前にうつ病を発症していたとして,パワハラとうつ病,自殺の業務起因性が認められました。

 

パワハラによる自殺の場合,証拠を収集するのが困難であったり,労災と認定されるハードルが高い等の壁はありますが,本件のように,行政訴訟において労災と認められる可能性もありますので,一度,弁護士にご相談することをおすすめします。

 

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