使用者が労働者に付加金を支払うタイミング

 付加金という一般の方々には馴染みが薄い問題について,重要な判決がありましたので,マニアックですが紹介させていただきます。東京地裁平成28年10月14日判決の損保ジャパン日本興亜事件(労働判例1157号59頁)で,東京法律事務所の弁護士菅俊治先生がご担当された事件です。

 

 付加金とは,労働基準法上支払いが命じられている金銭を支払わなかった使用者に対して,労働者の請求によって裁判所が命じる未払金と同一額の金銭のことをいいます。労働基準法114条に定められています。要するに,使用者があまりにも杜撰な労務管理をしていて,残業代を支払っていなかった場合,裁判所の裁量で,未払残業代と同じ金額を労働者に支払わなければならなくなる可能性があるのです。付加金が認められれば,未払残業代とほぼ同じ金額が請求できるので,使用者は,二重の支払義務を負担することになります。

 

 損保ジャパン日本興亜事件では,未払残業代請求訴訟において,未払残業代と約154万円の付加金支払を命じる地裁判決が言い渡さえた後に,会社が未払残業代を供託し,控訴をせずに判決が確定したのですが,労働者が付加金について会社の預金債権を差し押さえたのに対して,会社が執行不許を求めて請求異議の訴えを提起しました。

 

 本件の争点は,事実審の口頭弁論終結後,付加金の支払いを命ずる判決が確定するまでの間に,任意に未払の残業代が支払われた場合,使用者に付加金を支払う義務が発生するか否かです。

 

 この争点について,東京地裁平成28年10月14日判決では,次のように判断されました。「(付加金の支払を認める)判決が取り消されない限りは,事実審の口頭弁論終結後の事情によって,当該判決による付加金支払義務の発生に影響を与えないというべきである。したがって,使用者が判決確定前に未払割増賃金を支払ったとしても,その後に確定する判決によって付加金支払義務が発生するので,付加金支払義務を消滅させるには,控訴して第一審判決の付加金の支払を命ずる部分の取消を求め,その旨の判決がされることが必要である。」

 

 付加金支払を命ぜられた使用者は,未払残業代を労働者へ支払ってから控訴して,控訴審で第一審判決の付加金の支払を命ずる部分を取り消してもらわなければならず,この手順を誤れば,未払残業代を支払ったとしても,付加金を支払わなければならなくなるので,注意が必要です。