求人詐欺事件

 京都の弁護士中村和雄先生が担当したA福祉施設求人詐欺事件・京都地裁平成29年3月30日判決を紹介します。

 

 原告は,64歳の男性で,被告のハローワークの求人票をみて,被告に就職しました。被告のハローワークの求人票には,「雇用形態:正社員」,「雇用期間:期間の定めなし」,「定年制なし」と記載されていました。面接時には,定年制についてはまだ決められておらず,労働契約期間について特にやりとりはありませんでした。

 

 しかし,被告から原告に交付された労働条件通知書には,「契約期間:期間の定めあり 更新する場合があり得る」,「定年制:有(満65歳)」と記載されており,原告は,この労働条件通知書に署名押印しました。求人票と労働条件通知書の労働条件が全く異なっていたのです。

 

 その後,被告は,期間が満了したとして,原告を雇止めしたので,原告は,本契約は期間の定めのない労働契約であり,解雇は無効であるとして,提訴しました。

 

 判決は,「求人票記載の労働条件は当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り,雇用契約の内容になる」として,原告と被告との間に,期間の定めのない労働契約が成立したことを認めました。

 

 また,定年制については,「定年制は,その旨の合意をしない限り労働契約の内容とはならないのであるから,求人票の記載と異なり定年制があることを明確にしないまま採用を通知した以上,定年制のない労働契約が成立したと認めるのが相当」としました。

 

 そして,労働条件通知書への原告の署名押印については,期間の定めの有無は契約の安定性に大きな違いが生じることから重要な労働条件であり,定年制の有無は当時64歳の原告にとっては重要な労働条件であり,原告が自由な意思に基づいて同意していないとされました。

 

 その結果,本契約は期間の定めのない労働契約であり,解雇は無効とされました。

 

 求人票と採用段階での労働条件が異なる場合がありますので,労働者は,求人票を保管しておき,採用段階での労働条件をしっかり確認して,求人票と違う点があれば指摘しておくべきです。労働条件通知書の署名押印があっても勝訴できた点が画期的です。本判決は,労働者の自由な意思に基づく同意の有無について判断しており,実務の参考になるので,紹介させていただきます。