解雇を争う2つの方法

労働者が解雇された場合,解雇を争う方法

は大きく分けて2つあります。

 

 

 

 

1つは,解雇が無効であるとして,

労働者が会社との労働契約上の権利を有する地位にあることの

確認を求め(地位確認といいます),

解雇期間中の賃金(バックペイといいます)を請求する方法です。

 

 

この地位確認とバックペイを請求する方法は,

解雇が無効なので,労働者は,解雇した会社で

働き続けますという就労請求が前提となっています。

 

 

もう1つの方法は,権利を濫用した違法な解雇によって,

労働者が損害を被ったとして,

不法行為(違法に他人に損害を与える行為のことです)を理由に,

会社に対して,損害賠償請求する方法です。

 

 

この損害賠償請求は,解雇した会社で

就労することは前提になっていません。

 

 

一般論として,地位確認とバックペイを請求する方法の方が,

労働者にとってより多くの金銭が会社から支払われることが多いです。

 

 

もっとも,地位確認とバックペイを請求する方法の場合,

解雇した会社へ復職して就労することが前提となっているため,

会社から復職を求められたときに,

解雇した会社に戻りたくない労働者は対応に困ります。

 

 

自分を解雇した会社に復職しても,会社でうまくやっていけるのか,

また,会社から仕返しをされるのではないかと不安に思うからです。

 

 

 

 

会社には戻りたくはないけど,解雇には納得できないので,

会社に対して金銭請求したいと考える労働者がほとんどだと思います。

 

 

そこで,どうしても会社に戻りたくない場合に,

損害賠償請求の方法をとることがあります。

 

 

労働契約法16条で,権利を濫用した解雇は無効とされます。

 

 

そして,民法1条3項には,「権利の濫用は,これを許さない

と規定されており,権利の行使が濫用になるときは,

不法行為として損害賠償の責任を免れることはできないのです。

 

 

そのため,権利を濫用した無効な解雇によって,

不法行為が成立するのです。

 

 

それでは,解雇で損害賠償請求する場合,

どのような損害が賠償の対象となるのでしょうか。

 

 

1つは,賃金相当額の逸失利益です(本来得られていたはずのに,

不法行為によって得られなくなった利益のことです)。

 

 

解雇がなければ,解雇した会社で勤務し続けて

賃金をもらえていたはずなのに,解雇によって

賃金が得られなくなったので,本来もらえていたはずの

賃金相当額を損害として請求します。

 

 

裁判では,解雇後,再就職に必要な期間の賃金相当額が

逸失利益として認められることがあるですが,

1年分,8ヶ月分,6ヶ月分,3ヶ月分などと幅があります。

 

 

もう1つは,慰謝料です。

 

 

解雇された労働者は,一方的に職場から排除されて

仕事をする社会人としての生活ができなくなり,

毎月の賃金も途絶えて生活できなくなる不安を抱えるので,

多大な精神的苦痛を被るのが通常です。

 

 

しかし,裁判では,財産的損害が満たされるだけでは

慰藉できないような違法性の強い解雇でなければ

慰謝料が認められない傾向にあります。

 

 

解雇で慰謝料を請求するには,

解雇の経緯,手続,解雇理由,不当な動機の有無などの点から

解雇の違法性が強いことを主張していくことが必要になります。

 

 

なお,解雇の損害賠償請求で会社から,

雇用保険の失業給付を受けている場合に,

失業給付の受給額を損害額から差し引くように

主張してくることがあります。

 

 

 

 

しかし,雇用保険の失業給付は,

離職の理由を問わず社会政策上認められるものであり,

労働者も雇用保険料を労使折半で負担していることから,

損害額から失業給付の受給額を差し引くことはできないと考えられます。

 

 

損害賠償請求の場合,労働者に支払われる金額が

いくらになるのかが見通せないことがあり,

労働者の満足いく解決にならない可能性もあります。

 

 

解雇を争う場合,クライアントの意向を聞きながら,

地位確認とバックペイの請求でいくのか,

損害賠償請求でいくのかを吟味していきます。