過労事故死において安全配慮義務が認められる

当時24歳であった労働者が,長時間不規則労働の末に帰宅途中に電柱にぶつかるという単独バイク事故を起こして死亡しました。遺族は,被告会社に対して,安全配慮義務違反があったとして,損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

今年2月8日,横浜地裁川崎支部は,通勤途中の過労運転事故を防ぐ安全配慮義務を認定したうえで,約7600万円の損害賠償と謝罪及び再発防止を約束させる和解決定をし,これが受託されました。

 

裁判所は,被害者が長時間労働,深夜早朝の不規則勤務による過重な業務によって,疲労が過度に蓄積し顕著な睡眠不足の状態に陥っていたことが原因で,居眠り状態に陥って,交通事故死するに至ったことと,被告会社が原付バイクによる出勤を指示,容認していたことを認定しました。

 

そして,裁判所は,「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務内容及び態様を定めてこれを指揮監督するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり,極度の睡眠不足に陥るなどして,労働者の心身の健康を損ない,あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じないよう注意する義務(安全配慮義務)を負う」と判断しました。

 

安全配慮義務とは,労働者が生命や身体の安全を確保しつつ働けるように必要な配慮をする義務です(労働契約法5条)。これまで,通勤帰宅途中の交通事故は,会社の指揮命令の外のことであり,労働者の自己責任とされて,会社の安全配慮義務違反の責任を問うのは難しいとされていました。

 

また,労災認定上,通勤災害は,通勤経路上の交通事故であれば労災認定されるのですが,交通事故の背景にある長時間労働等の過労実態については調査されることはなく,会社は過労事故の対策を怠っていました。

 

本件事件は,通勤の方法についても,会社の安全配慮義務の範囲を明確に拡張した点で重要です。また,和解では,被告会社が,再発防止策として,11時間の勤務間インターバルを就業規則に明記すること,男女別仮眠室の設置や深夜タクシーチケットを導入することを約束したようで,このことも画期的です。

 

今後,過労事故死の撲滅に向けて,実態解明と防止対策が進むことを期待したいです。

 

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プロフェッショナル進化論~「個人シンクタンク」の時代が始まる~

田坂広志先生の「知的プロフェッショナルへの戦略」を読み,私は,田坂先生のファンになりました。そして,「知的プロフェッショナルへの戦略」を紹介していただいた名古屋の弁護士北村栄先生に,次に読むべき田坂先生の著書についてお聞きしたところ,「プロフェッショナル進化論」を紹介していただいたので,早速読んでみました。

 

インターネット革命とウェブ2.0革命を経て,全てのプロフェッショナルは,個人シンクタンクへ進化していくことになります。今後,プロフェッショナルは,①情報や知識を集めて,②業界や市場の将来についての新たな知見を得て,③業界や市場でこれから何が起こるのかを予見し,④これから何を目指すのかのビジョンを提示し,⑤これから何をなすべきかのコンセプトを提案し,⑥未来予見,ビジョン,コンセプトを周囲に伝え,⑦現状変革のための動きを創り出していく,といった7つのシンクタンク機能が求められます。

 

そして,田坂先生は,個人シンクタンクへの進化のための6つの戦略を提言しています。この中から,気付いたことを3つ紹介します。

 

1点目は,世の中に自分の意見やメッセージを伝えて,世の中に良き影響を生み出すためのパーソナルメディアを持つことです。パーソナルメディアにおいて,継続的に読者に対して,役に立つ情報,知識,知恵を整理して伝えることは,大きな努力を必要とし,そのことで腕を磨くことができます。また,「批評とは,人をほめる特殊の技術である。」と言われるように,何かを批評をする場合には,必ずポジティブメッセージを語る必要があります。

 

2点目は,自分の持つ専門的な知識を,分かりやすく語り,世の中に伝えることです。高度な専門知識を素人にも分かりやすく語るためには,①知識の本質を把握し,②相手の状況を判断し,③相手の気持ちを感じ取り,④簡明な論理を展開して,⑤比喩や物語を駆使する,といった様々な力が必要になります。

 

3点目は,人々の知恵が集まるコミュニティを創り出すために,まず自らメンバーに深く共感することです。ここで,「共感」とは,「深い縁を感じること。その縁を大切にすること。」と提示されています。なるほど,ネットが進化したことで,以前であれば巡り会えなかった人と縁をいただくことが容易になったので,縁を感じて大切にすることが共感につながるのです。

 

私は,今後ともブログやフェイスブックで読者にとって役立つ情報を発信し,難しい法律の問題を分かりやすく解説して,これから巡り合う方々との縁を大切にして,個人シンクタンクへ進化していきます。専門職がキャリアアップのための最高の指南書です。

裁判官!当職そこが知りたかったのです。~民事訴訟がはかどる本~

中村真弁護士が,要件事実マニュアルで有名な岡口基一裁判官に対してインタビューをして,弁護士をしていると気になる民事訴訟における裁判官の本音や裁判官の実態を,詳細に聞き出している,今までになかった民事訴訟の名著です。弁護士が読むと,なるほどと腑に落ちることがたくさん書かれています。

 

この本を読んで,気付いたこと,すぐに実践すべきことについてまとめてみました。

 

① 訴状や準備書面の箇所では,裁判官は事件をたくさん抱えていてとても忙しいので書面の分量は少ない方がよく,書面が長くなるのであれば,最初の1頁目に要旨を書く。裁判官は,訴状のファーストインプレッションにしばらく拘束されるので,訴状は,なるべく短く,すぐに読めるようにして,ベストエビデンスを挙げながら,「私が言っていることは間違いないのです」と裁判官に刷り込む。訴状は,代理人の印象を決める。

 

② 立証の箇所では,裁判官は立証趣旨を押さえた上で証拠を見たいので,証拠説明書には「立証趣旨はこうなので,ここを読んでください」と書く必要がある(証拠説明書は重要である)。

 

③ 尋問の箇所では,裁判官は動機を中心に見て,次にどういう人間なのかという周辺情報を見るので,尋問では,動機があったか,その動機に従って動いたと考えておかしくないかの2点を意識して聞くと効果的である。

 

その他にも,和解のメリットとデメリット,控訴の趣旨の書き方など,分かっていそうで,実は分かっていなかったことが,明快に記載されており,弁護士として大変勉強になりました。弁護士必読の書といっても過言ではないくらい,貴重な情報が盛りだくさんの名著です。