就業規則の周知

労働者が会社に就職する際に,労働契約を締結します。労働契約には,賃金はいくらで,労働時間は何時から何時までであるといった労働条件が記載されています。そして,労働契約は,労働者と会社の合意があって成立します。そのため,労働条件は,労働者と会社が合意して決められるのが原則です(労働契約法6条)。

 

もっとも,会社は,労働者ごとに労働条件を個別に定めるのは,労務管理として煩雑なので,雇用する労働者に広く適用される就業規則に労働条件を定めています。通常,就業規則に定められている労働条件が,労働契約に適用されています。

 

就業規則に定められた労働条件が労働契約の内容になるためには,①就業規則に記載されている労働条件の内容が合理的であること,②就業規則を労働者に周知すること,という2つの要件を満たさなければなりません(労働契約法7条)。

 

ここで,②就業規則の周知とは,どのようなことをすればいいのかについて説明します。労働基準法106条1項,労働基準法施行規則52条の2によれば,就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,就業規則を労働者に交付すること,就業規則を会社のパソコンで見れるようにしておくことのどれかをすれば,就業規則の周知になります。ようは,就業規則が労働者が知ろうと思えば知ることができる状態に置かれていればいいのです。

 

もっとも,就業規則を変更する際に,変更する労働条件についての説明が不十分であったり,就業規則そのものは会社に掲示されていても,退職金の計算根拠となる規定が掲示されていない場合には,就業規則が実質的に周知されていないとされて,変更後の就業規則の効力が生じない場合があります(東京高裁平成19年10月30日判決・中部カラー事件・労働判例964号72頁)。変更後の就業規則の効力が生じない場合,労働者は,変更前の労働条件を会社に主張できます。

 

杜撰な労務管理をしている会社では,就業規則が存在していても,労働者に周知していない可能性がありますので,就業規則が争点になる場合には,労働者は,就業規則の周知をチェックする必要があります。