石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
パワハラの被害実態とは
1 パワハラ・コロナ・過労死110番に寄せられた相談
6月20日に実施された「パワハラ・コロナ・過労死110番」では,
全国で次のようなパワハラの相談がありました。
上司に話しかけても返事をしてもらえなかったり,
あいさつをしても無視されたりして困っている。
上司から人前で「バカヤロー」などと怒鳴られる。
上司が必要な情報を教えてくれなかったり,
こちらのプライベートを執拗に詮索してきて,
「あなたの仕事はなくなるからね」と言われる。
このようなパワハラ被害が後を絶たないのが現実です。
今年の6月1日から改正労働施策総合推進法が施行され,
大企業に対して,パワハラ防止措置が義務付けられましたので,
今後はますます,企業におけるパワハラ対策が重要になってきます。
2 パワハラの被害実態
さて,パワハラ被害について興味深い論稿を読みましたので,
アウトプットします。
ジュリストという法律家の専門誌の1546号で
パワハラに関する特集があり,その特集の中にあった
神奈川県立保健福祉大学講師の津野香奈美先生の
「メンタルヘルスとハラスメント予防」という論稿です。
この論稿には,全国におけるパワハラの実態調査
の結果が記載されています。
この論稿に記載されている調査の結果によりますと,
雇用者の6.1%(17人に1人)が
過去30日間に職場でパワハラを受けており,
14.8%(7人に1人)が職場でパワハラがあると
認識しているようです。
日本の雇用者数は約6000万人であるため,
その6.1%とすると,全国で約360万人が
パワハラにあっているという計算になるようです。
パワハラの被害が拡大しており,
パワハラの被害にあう確率も高いことがわかります。
では,パワハラにあう人はどのような人なのでしょうか。
この論稿に記載されている調査によると,
若年者(29歳以下),高卒未満,
世帯収入250万円未満,主観的社会階層
(自分自身が日本社会の中でどの階層に属しているかどうかの認識)
が低い労働者が,よりパワハラを受けていることが
明らかになったようです。
立場の弱い方がパワハラを受けやすい可能性があるのです。
パワハラは弱い者いじめという側面があるので,
立場の弱い方がターゲットになりやすいわけです。
3 パワハラの健康被害
また,職場のパワハラによる健康被害についても,
興味深い記載がありました。
デンマークの研究では,時々パワハラを受けていた場合,
受けていない場合に比べて,2年後にうつ病を
新規発症するリスクが約2.2倍であるのに加えて,
より頻繁にパワハラを受けていた場合は,
受けていない場合に比べて,2年後の新規うつ病発症リスクが
約9.6倍であったようです。
ノルウェーの研究では,パワハラを受けていると,
受けていない人に比べて,2年~3年後に希死念慮を持つリスクが
約2.1倍であったようです。
津野先生の研究では,パワハラを受けていると,
受けていない場合と比べて約12倍もPTSD症状
(精神的不安定による不安,不眠などの過覚醒など)
を持つリスクが高い結果になったようです。
このように,パワハラを受けると,
被害者は直接,精神的な苦痛を受けて,
メンタルヘルスが害されるのです。
さらに,パワハラの被害がやっかいなのは,
周囲にも影響を及ぼすという点です。
パワハラの直接の被害者だけでなく,
パワハラ行為を目撃した人もメンタルヘルスの不調になるようです。
自分が直接パワハラの被害をこうむっていなくても,
「次は自分がターゲットになるのではないか」と怖くなったり,
「見ていて辛い。被害者がかわいそうだ」と思いながらも
うまく助けることができずに罪責感を感じ,
働きにくくなるのが原因と考えられています。
パワハラの被害は,間接的に広範囲に拡大することがわかります。
メンタルヘルスが害されると回復に時間がかかりますので,
被害者本人にとっても,社会全体にとっても大きなマイナスとなります。
このようなパワハラの被害実態からしても,
早急にパワハラを撲滅する必要があるのです。
本日もお読みいただきありがとうございます。