石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
河井議員夫妻の労働基準法違反の疑惑
1 公職選挙法違反だけではないようです
6月16日,広島地裁において,
公職選挙法違反の罪に問われた河井案里参議院議員の
公設秘書の男性に対して,
懲役1年6ヶ月執行猶予5年の判決が言い渡されました。
この公設秘書の事件以外にも,
河井案里参議院議員と河井克行前法務大臣が地元の議員に対して,
総額2600万円もの現金を渡した疑惑が浮上しており,
検察当局が捜査をすすめています。
河井議員夫妻には,公職選挙法違反以外にも,
労働基準法違反の疑惑も浮上しています。
2 給料の減額
まず,河井議員夫妻の事務所で働いていた元私設秘書は,
一方的に給料を減額されたようです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/1fc7a5dd0a73c3c79f4a5a675f3cafd2d52082c3
雇用主が労働者の給料を一方的に減額することは原則としてできません。
雇用主が労働者の給料を減額できるのは次の4つの場合に限定されます。
①給料の減額について労働者との個別の同意がある場合
②就業規則の不利益変更を行った場合
③新たな労働協約の締結による不利益変更を行った場合
④労働契約や就業規則で使用者に委ねられた
労働条件の決定・変更権限を行使した場合
このうち④については,懲戒処分としての減給,
業務命令としての降格による給料の減額,
就業規則中の賃金査定条項に基づく給料の減額などがあり,
原則として,労働契約や就業規則の根拠が必要になります。
河井議員夫妻による給料の減額ですが,
上記の②と③の可能性は低く,①か④を検討することになります。
元私設秘書の方が,①給料の減額に同意していなければ,
河井議員夫妻が一方的に給料を減額することは違法になります。
④による給料の減額の場合であれば,
労働契約や就業規則に根拠規定があるのか,
根拠規定があれば,減額の要件を満たすのかをチェックします。
3 割増賃金が支払われていない
次に,河井克行前法務大臣に雇用された運転手は,
選挙期間中は休日を返上して深夜まで働いたにもかかわらず,
割増賃金が支払われなかったようです。
使用者は,労働者に対して,
1週間に1回の休日を与えなけばなりません(労働基準法35条1項)。
1週間に1回与えなけばならない休日を法定休日といい,
法定休日に労働させた場合,使用者は,労働者に対して,
35%増しの割増賃金を支払わないといけません(労働基準法37条1項)。
22時から5時までの深夜の時間帯に働かせた場合には,
使用者は,労働者に対して,25%増しの
割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条4項)。
そのため,河井克行前法務大臣が運転手に対して,
法定休日に労働させたり,深夜の時間帯に労働させていたのに,
割増賃金を支払っていないのであれば,
労働基準法37条に違反し,6ヶ月以下の懲役または
30万円以下の罰金となります(労働基準法119条)。
4 解雇
さらに,河井克行前法務大臣に雇用された運転手は,
選挙後に,突然解雇を通告されたようです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e92cecc0bcc23a630eb03137d3fe9a21cd1753c2
解雇は,よほどの理由がないとできませんし,
他の手段を尽くしても解雇はやむを得ないという社会的相当性がないと,
無効になります。
報道によりますと,河井克行前法務大臣に雇用された運転手の
解雇については,合理的な理由がなく無効になる可能性があります。
このように,政治家に雇用される秘書の方々は,
労働基準法で保護されていない実態がありそうです。
政治家は権力者なので,労働基準監督署も
調査に踏み込みにくいのかもしれません。
政党内に労働法に関する相談窓口を設置するなどの
対策が必要だと考えます。
本日もお読みいただきありがとうございます。