石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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志賀町の職員の給与10ヶ月減額は認められるのか
1 志賀町における職員の給与減額のニュース
石川県志賀町では,国が全国民に一律10万円を給付することに加えて,
独自に全町民に2万円を上乗せして支給することにしたようです。
https://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/news/CK2020042502100011.html
しかし,全町民に2万円を上乗せして支給するための財源を,
志賀町の特別職や職員の給与を10ヶ月減給して
捻出することにしたようです。
志賀町の一般の職員の減給は10%で,
毎月3万円ほどの減給になるようです。
今年5月の町議会の臨時会で関連条例が提出される見込みです。
町長や議員が給料を減額することには誰も反対しないのですが,
一般の地方公務員の給料まで減額するのはやりすぎではないかと思います。
そこで,本日は,地方公務員の給料について説明します。
2 地方公務員の給与の原則
地方公務員の給料は,民間の労働者とは異なる原則が適用されます。
地方公務員の給与決定の原則として,
職務給の原則,均衡の原則,給与条例主義があります。
職務給の原則とは,地方公務員の給与は,
その職務と責任に応ずるものでなければならないとする考え方です
(地方公務員法24条1項)。
均衡の原則とは,地方公務員の給与は,
生計費並びに国および他の地方公共団体の職員の給与並びに
民間事業に従事する者の給与その他の事情を考慮して
決定しなければならないとするものです(地方公務員法24条2項)。
この原則は,①給与には生活給の要素があること,
②行政につき民間準拠による給与決定原則をとること,
③公務員相互間においても均衡のとれたものでなければならないこと,
を明らかにしたものです。
地方公務員の給与,勤務時間その他の勤務条件は条例で定める
とされており(地方公務員法24条5項),
これに基づかない支給はできません(地方公務員法25条1項)。
これを給与条例主義といいます。
給与条例主義の趣旨は,地方公務員の給与の原資は
地方公共団体の財政に依拠していることから,
住民代表の議会による民主的統制のもとにおくとともに,
条例という法規範で客観的に定めることによって,
地方公共団体の恣意を排除し,
地方公務員の身分と生活を保障しようしたものとされています。
このように,地方公務員の給与については,
職務給の原則と均衡の原則をふまえたうえで,
条例で決める必要があるので,
地方公共団体の長の一存で勝手に決めれるものではありません。
3 団体交渉をするべき
とくに,地方公務員の給与を減額するとなれば,
人事委員会の勧告をふまえて(地方公務員法26条),
誠実な団体交渉を尽くした上でなければ,認められないと考えます。
地方公務員法55条1項において,地方公務員の給与について,
登録を受けた職員団体から団体交渉の申し入れがあった場合には,
地方公共団体の当局はこれに応じる義務があります。
地方公務員の給与については,地方公共団体の当局と
職員団体との間における誠実な団体交渉を経た上で決定されるべきです。
地方議会は,この団体交渉の結果を尊重して,
条例を可決する必要があります。
そのため,労使の団体交渉をしていないのに,
給与を10%も削減するのは認められるべきではありません。
それに,給与を10%も削減すれば,
地方公務員の士気が下がる上に,
2万円の支給が上乗せされても,消費にあまり影響はなく,
かえって,志賀町に住む職員の給与が減って,
消費に悪影響がでる可能性もあります。
そのため,志賀町の職員が,今回の給与の減額に
疑問を抱いたのであれば,給与の減額をしないように,
志賀町当局と団体交渉して,撤回させたり,
条例案が可決されないように,
議案の撤回を議会に働きかけていく必要があります。
本日もお読みいただきありがとうございます。