石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
労働者が新型コロナウイルスに感染して会社が休業した場合に懲戒処分されるのか
1 正確な知識と情報があれば不安は解消できる
4月18日土曜日に,
「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも相談会」
という,電話相談が開催され,
私は石川県で90分の電話相談の対応をしました。
90分の時間帯で合計7件の電話相談があり,
相談が終わるとすぐに次の相談の電話がかかってくるという感じで,
大変多くの相談がありました。
もっとも,電話相談の内容としては,
まだ切迫した状況ではないけれども,このまま,
新型コロナウイルスの感染拡大が長期化して,
もしものことがあったらと考えたら不安なので電話しました
というものが多かったです。
これらの相談から分かったことは,正確な知識や情報がなく,
漠然と不安に思っている方が多く,正確な知識や情報を取得すれば,
不安は解消されるということです。
そのため,私は,新型コロナウイルスに関連する
労働問題の情報を発信して,労働問題で不安に感じている方々の
不安を解消していきたいと考えます。
2 就業規則に懲戒処分の根拠規定はあるか
ということで,本日は,先日の電話相談であった,
もし自分が新型コロナウイルスに感染してしまって,
会社が休業することになってしまったら,会社から,
懲戒処分を受けるのか,という相談に対する回答をします。
結論は,そのような懲戒処分は無効になると考えます。
同居の家族が新型コロナウイルスに感染してしまい,
その結果,同居していた労働者も一緒に感染してしまい,
労働者が働いていた会社が2週間休業することになった
ケースで考えてみましょう。
まず,会社が労働者に対して,懲戒処分をくだすためには,
就業規則に懲戒処分の根拠規定が存在する必要があります。
そのため,自分の会社の就業規則に,
感染症に罹患して,会社が休業したときに
懲戒処分されるという根拠規定があるのかを確認しましょう。
労働判例別冊の「改訂5版就業規則ハンドブック」には,
「故意,過失,怠慢もしくは監督不行届によって災害,傷害,
その他の事故を発生させ,または会社の設備,器具を破損したとき」には,
減給または出勤停止とする規定が記載されています。
また,「故意または重大なる過失によって会社の設備,器物
その他の財産を破損または滅失し,会社に甚大な損害を与えた場合」には,
懲戒解雇とする規定が記載されています。
そもそも,このような就業規則の条項が存在しない会社は,
労働者が新型コロナウイルスに感染して,
会社が休業することになっても,労働者に対して,
懲戒処分をすることができません。
3 懲戒事由があるのか
上記のような就業規則の条項があれば,
次に,これらの規定に該当するかが問題になります。
例えば,新型コロナウイルスに感染した労働者が,
外出を自粛していて,新型コロナウイルスに感染しないように
マスクを着用して,消毒液で手洗いをして,対策をしていたのに,
たまたま家族が感染して濃厚接触して,
新型コロナウイルスに感染したのであれば,
上記の条項の過失,重大な過失,怠慢がないことになります。
もっとも,外出自粛が要請されている現状において,
労働者が風俗店にいき,濃厚接触したために,
新型コロナウイルスに感染した場合には,
上記の条項の重大な過失に該当する可能性はでてきます。
外出自粛要請の中,風俗店にいったようなケース以外であれば,
上記の条項に該当しないと考えます。
そのため,労働者が新型コロナウイルスに感染して,
会社が休業になったことを理由とする懲戒処分は,
会社の就業規則に懲戒処分の根拠規定が存在しない,または,
労働者には懲戒事由がないとして,無効になると考えます。
ですので,労働者が新型コロナウイルスに感染して,
会社が休業になっても,懲戒処分されるリスクは極めて低いので,
この点については,ご安心ください。
本日もお読みいただきありがとうございます。