石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
仕事中に新型コロナウイルスに感染した場合,労災申請をしつつ傷病手当金の申請もする
1 仕事中に新型コロナウイルスに感染して会社を休むことになったら
新型コロナウイルスの感染拡大がとまりません。
2020年4月2日の段階で全国の感染者の総数は
3450人となりました。
自分がいつ感染してもおかしくない状況になりつつあります。
もし,新型コロナウイルスに感染してしまった場合,
最低2週間ほどは会社を休まなければならなくなりますので,
治療費や会社を休んでいる期間の給料のことが気になります。
本日は,仕事中に新型コロナウイルスに感染してしまった場合の
労災申請や傷病手当金について解説します。
2 新型コロナウイルス感染症と労災申請
医療機関で働いている医師や看護師が,
新型コロナウイルスに感染した患者の診療をして
新型コロナウイルスに感染したり,海外渡航が禁止される前に,
中国,アメリカ,ヨーロッパなどに海外出張へいき,
日本に帰国後に新型コロナウイルス感染症を発症した場合には,
労災申請をすることを検討します。
仕事をしていたときに新型コロナウイルスに感染したのであれば,
労災保険を利用すれば,治療費を労災保険から全額支給してもらい,
仕事を休んでいる期間の給料の8割を補償してもらうことができます。
労災と認定されるためには,業務が原因となって
新型コロナウイルス感染症が発症したといえなけばなりません。
これを業務起因性といいます。
新型コロナウイルス感染症の場合,
仕事中における感染機会や感染経路が明確に特定され,
感染から発症までの潜伏期間や症状などに医学的な矛盾がなく,
仕事以外の感染源や感染機会が認められない場合に,
業務起因性が認められて,労災と認定されます。
医療機関で働いている医師や看護師の場合であれば,
プライベートな活動で新型コロナウイルスに感染する機会がなかったなら,
業務起因性は肯定されやすいと考えます。
海外出張の場合は,新型コロナウイルスが流行している地域に出張して,
商談などで新型コロナウイルスの感染者と接触し,
プライベートな活動中に感染機会がなかったなら,
業務起因性が認められると考えます。
しかし,海外出張先の商談相手が新型コロナウイルスの
感染者だったと証明できないかもしれず,また,
海外出張中に立ち寄ったレストランで感染した可能性もあるなど,
業務起因性が認められるか不明です。
また,国内において,接客などの対人業務において,
新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触し,
仕事以外に感染者との接触や感染機会が認められないときには,
業務起因性が認められると考えます。
この場合も,仕事中に新型コロナウイルスの感染者と
濃厚接触したという感染経路を証明できるのかという問題がでてきます。
このように,仕事が原因で新型コロナウイルスに感染したとして
労災申請をする場合,自身の感染経路を証明することが
ハードルになる可能性があります。
また,調査する労働基準監督署も,時間と労力がかかりますので,
労災と認定されるまでに時間がかかることがあります。
3 傷病手当金の申請
そこで,労災の認定までに時間がかかり,
その間に仕事を休んでいる給料の補償が欲しい場合には,
健康保険の傷病手当金の受給をします。
傷病手当金は,仕事とは関係ない傷病で休業した労働者が
会社から十分な報酬が受けられない場合に
健康保険協会などから受けることができる手当金です。
傷病手当金は,最大1年6ヶ月間,
おおむね給料の3分の2(70%弱)の支給がされます。
傷病手当金は,会社と主治医の証明をもらって申請書を提出すれば,
労災よりも早く受給できます。
もっとも,労災保険の休業補償給付と
傷病手当金の両方を受給することはできません。
そこで,労災申請と,傷病手当金の申請をして,
傷病手当金の受給後に労災認定されれば,
労災保険から休業補償給付が支給されるので,
それですでに支払われた傷病手当金を返還すればいいのです。
労災の休業補償給付は給料の80%で,
傷病手当金は給料の70%弱なので,
労災認定されれば,傷病手当金を十分に返還できます。
そのため,仕事中に新型コロナウイルスに感染したものの,
感染経路の調査に時間がかかりそうであれば,労災申請をしつつ,
傷病手当金を受給するのがいいと考えます。
本日もお読みいただきありがとうございます。