石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
非常勤公務員の労災制度
北九州市の非常勤職員として,
区役所の子供・家庭相談コーナーの相談員をしていた女性公務員が,
上司によるパワハラが原因でうつ病を発症し,
その後大量の薬を飲んで死亡したことについて,
遺族が労災を申請しました。
しかし,北九州市は,条例で定める規則に
非常勤職員やその遺族からの労災申請は認められないとして,
労災申請を却下しました。
そのため,遺族は,北九州市が条例で
遺族の労災申請を認めていないのは違法であるとして,
裁判を提起しました。
なぜ,このような不平等な取扱となっているのでしょうか。
それは,地方公務員の労災の制度が複雑で,
非常勤職員の労災制度に不備があったからなのです。
まず,公務員は,民間企業と異なり,
さまざまな種類があり,適用される法律が異なります。
一般地方公務員の場合,
現業職員である地方公営企業職員(水道事業や鉄道事業などの職員),
特定地方独立行政法人職員,
単純労務職員(学校給食調理員や学校用務員などの現業職員),
それ以外の非現業職員(県庁や市役所で働く公務員)に分かれます。
現業職員と非現業職員に分かれる以外に,
常勤職員と非常勤職員に分かれます。
地方公務員の非常勤職員は,特別職非常勤職員と一般職非常勤職員にわかれ,
通常,任用期間は1年以内とされています。
そして,地方公務員の労災について,
①現業の常勤職員には,地方公務員災害補償法が適用され,
②現業の非常勤職員には,民間企業の労働者と同じ労災保険法が適用され,
③非現業の常勤職員には,地方公務員災害補償法が適用され,
④非現業の非常勤職員には,地方公共団体の補償条例が適用されます。
北九州市の事件は,④非現業の非常勤職員に適用される
補償条例が問題となりました。
地方公務員災害補償法69条には,
「地方公共団体は、条例で、職員以外の地方公務員
(特定地方独立行政法人の役員を除く。)のうち法律
(労働基準法を除く。)による公務上の災害
又は通勤による災害に対する補償の制度が定められていないもの
に対する補償の制度を定めなければならない。」と定められています。
この法律に基づき,地方公共団体は,
補償条例を制定しているのですが,
以前の補償条例では,非常勤職員や遺族の
労災申請が認められていませんでした。
北九州市の労災申請問題で,
非常勤職員や遺族の労災申請が認められないのはおかしい
ということになり,総務省が
「議員・非常勤職員の公務災害補償条例施行規則(案)」
に関する通知を出して,補償条例や規則が改正されて,
非常勤職員や遺族の労災申請が認められることになりました。
補償条例や規則が改正されて,
非常勤職員や遺族の労災申請が認められるようになり,
不平等な取扱は解消されましたが,
北九州市の遺族の労災申請は,
補償条例が改正される前なので,
依然として北九州市は,遺族の労災申請を拒んでいるようです。
来年,判決がくだされるようですので,
遺族の労災申請が認められることを期待したいです。
このように,非常勤職員の労災申請について道が開けたものの,
非正規公務員には,雇用の不安定さや
正規職員との給料の格差といった問題がありますので,
これらを改善していく必要があります。
本日もお読みいただきありがとうございます。