石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
プログラマーに専門業務型裁量労働制が適用されるのか?
昨日,建築士の資格を持たずに,
建築士の仕事の補助をしている労働者には,
専門業務型裁量労働制が適用されないことの解説をしました。
本日は,プログラマーに専門業務型裁量労働制が
適用されるのかが争われたエーディーディー事件を紹介します
(京都地裁平成23年10月31日判決・労働判例1041号49頁)。
この事件は,2019年6月4日のブログで紹介した,
会社の労働者に対する損害賠償請求が否定された事件と同じです。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201906048131.html
専門業務型裁量労働制の対象業務は,
労働基準法38条の3第1項1号で,
「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する
労働者の裁量にゆだねる必要があるため,
当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し
使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして
厚生労働省令で定める業務」と規定されています。
そして,この「厚生労働省令で定める業務」が
労働基準法施行規則24条の2の2の第2項で規定されています。
労働基準法施行規則24条の2の2の第2項には,
専門業務型裁量労働制の対象業務が記載されており,
その2号において,「情報システム
(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として
複数の要素が組み合わされた体系であって
プログラムの設計の基本となるものをいう。)
の分析又は設計の業務」が挙げられています。
ただ,この条文を読んだだけでは,
「情報システムの分析又は設計の業務」とは,
具体的にどのような業務なのかがよくわかりません。
東京労働局が作成した「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」
というパンフレットに,「情報システムの分析又は設計の業務」
の具体的な内容が記載されています。
まず,「情報システム」とは,
「情報の整理,加工,蓄積,検索等の処理を目的として,
コンピュータのハードウェア,ソフトウェア,
通信ネットワーク,データを処理するプログラム等が
構成要素として組み合わされた体系をいうものであること」,
と記載されています。
次に,「情報処理システムの分析又は設計の業務」は,
「①ニーズの把握,ユーザーの業務分析等に基づいた
最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定,
②入出力設計,処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計,
機械構成の細部の決定,ソフトウェアの決定等,
③システム稼働後のシステムの評価,問題点の発見,
その解決のための改善等の業務をいうものであること」,
と記載されています。
そして,「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは
含まれないものであること」と記載されています。
正直,この定義を読んだだけでは,どのような業務が
「情報処理システムの分析又は設計の業務」
に該当するのかよくわかりませんが,単なるプログラマーには,
専門業務型裁量労働制が適用されないことだけはわかります。
さて,この事件の判決では,「情報処理システムの分析又は設計の業務」
が専門業務型裁量労働制の対象業務となっている趣旨として,
システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,
どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき
裁量性が認められるからであることを挙げています。
ところが,この事件の労働者は,
下請会社でシステム設計の一部を担当し,
かなりタイトな納期を設定されていたことから,
専門業務型裁量労働制が適用されるべき
業務遂行の裁量性がかなりなくなっていたとして,
この事件の労働者の業務は,
「情報処理システムの分析又は設計の業務」とはいえず,
専門業務型裁量労働制の要件を満たしていないと判断されて,
約567万円もの未払残業代の請求が認められたのです。
そもそも,プログラミングについては,
その性質上,裁量性の高い業務ではないので,
専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解されています。
このように,専門業務型裁量労働制の対象業務ではない
業務に従事しているにもかかわらず,
違法に専門業務型裁量労働制が適用されているケースがありますので,
専門業務型裁量労働制が適用されている場合には,
自分の業務が本当に対象業務なのかを
チェックすることが重要だと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。