石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
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農協における就業規則の不利益変更
和歌山県の紀北川上農業において,一定の年齢に達した職員をスタッフ職員として処遇し,賃金や賞与,定期昇給等について,他の職員と異なる扱いをする制度(スタッフ職制度)が導入されたところ,原告らは,スタッフ職制度の導入に伴う就業規則の変更は,労働条件を労働者に不利益に変更するものであり,定期昇給が実施されたことを前提とした未払賃金や賞与の支払を求めて提訴しました(大阪地裁平成29年4月1日判決・紀北川上農業事件・労働判例1165号5頁)。
労働条件を定める労働契約は,労働者と会社の契約である以上,当事者は契約で定められた労働条件に拘束され,当事者の合意がない限り,労働条件を一方的に不利益に変更できないのが原則です(労働契約法9条)。しかし,例外的に労働契約法10条に規定されている,①労働者の不利益の程度,②労働条件の変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉の状況等を総合考慮して,就業規則で労働条件を不利益に変更することも可能です。
まず,本件では,スタッフ職には,賞与が原則的に支給されなくなり,定期昇給も実施されなくなるので,労働条件が不利益に変更されています。原告らが,過去にフタッフ職制度について反対の意思表示をしていないといった消極的な事情で,黙示的に同意したとは認められないと判断されました。原告らは,労働条件の不利益な変更に同意していないと認定されました。
次に,①スタッフ職は,ノルマが軽減されていることから不利益の程度が大きいとはいえないこと,②被告農協の経常収支において赤字が恒常化していたとはいえず,定年後再雇用について,希望する者が少数であったことから,経営上の必要性は一定程度うかがえるものの,高度な必要性は認められないこと,③原告らは,過去に継続して定期昇給されて,他の職員に比べて賃金が相当高額になっており相当性が認められ,④労働組合はスタッフ職制度の導入に反対の意思表示をしていなかったことから,総合考慮の上,本件就業規則の変更に合理性が認められました。その結果,原告らは敗訴しました。
労働条件の変更のための労働者の同意を厳格に判断する点や,就業規則の不利益変更における4つの要素のあてはめ等が参考になるので,紹介しました。