石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
労使協定の内容を社内報に記載することが就業規則の変更になるのか?
一部の労働者が加入する労働組合が会社との間で,
労働者の賃金を14%減額する労使協定を締結し,
社会報で案内されました。
就業規則が変更されたわけではありません。
労働組合に加入していない労働者としては,
賃金が14%も減額されることに納得いきません。
このような場合,労働者の賃金は
14%減額されてしまうのでしょうか。
本日は,社内報による周知が就業規則の変更といえるのか,
労働組合から脱退した組合員に対して,
14%賃金を減額する労使協定が労働協約として効力が生じるのか
が争われた長尾運送事件を紹介します
(大阪高裁平成28年10月26日判決・労働判例1188号77頁)。
まず,この事件では,14%賃金を減額する
労使協定が締結されたものの,就業規則の変更は行われず,
社内報で案内がされただけでしたので,
社内報に14%賃金を減額する労使協定の
内容が記載されることによって,
就業規則が変更されたといえるかが争われました。
就業規則とは,会社が定める,
事業場の労働者集団に対して適用される
労働条件や職場規律に関する規則類をいいます。
ようするに,会社のルールを定めた規則集のことです。
就業規則は,会社のルールを定める重要な規則なのですが,
大量の労働者の労働条件を画一的・効率的に定める必要があることから,
会社が一方的に決定することができるのです。
とはいえ,就業規則で,労働者に
不利益な労働条件に変更するためには,
厳しい要件を満たす必要があるのです。
このように就業規則は,労働者にとって
非常に重要なものであることから,
ある文書が就業規則としての効力をもつためには,
少なくとも,会社が職場や労働条件に関する規律を定めた文書として
作成した形式を有していることが必要になります。
そのため,社内報は,就業規則としての体裁が整っていないので,
当然に就業規則にはなりません。
(https://wis-works.jp/labo/hakusho2018/より抜粋)
また,労働者と使用者が作成した労使協定書も
就業規則には該当しません。
すなわち,労使協定の内容を社内報に記載したところで,
就業規則を変更したことにはならないのです。
次に,労働組合を脱退した組合員に対して,
14%賃金を減額する労使協定が労働協約として
効力が生じるのかが争われました。
労働協約とは,会社と労働組合との間の
労働条件その他に関する協定であって,
書面に作成され,両当事者が署名または記名押印したものです。
労働組合と会社が労働条件について自主的に交渉した結果,
合意にいたり,その内容を明らかにした書面が取り交わされた場合,
その労働組合に所属する労働組合員の労働条件は,
労働協約で定められた内容となります(労働組合法16条)。
労働協約が適用されるのは,労働協約を締結した
労働組合に所属する労働組合員だけなのですが,
労働協約を締結した労働組合が
労働者の4分の3以上で組織されていた場合,
その労働協約は,労働組合に加入していない
労働者にも効力が生じるのです(労働組合法17条)。
本件事件では,14%賃金を減額する
労使協定を締結した労働組合は,
労働者の4分の3以上で組織されていませんでした。
そのため,労働組合から脱退した労働者に対しては,
労働協約の効力は及ばず,労働者が労働組合から脱退後も
労働協約の労働条件を存続させる意思を有している
例外的な場合に限り,労働組合から脱退した労働者にも,
労働協約の効力が及ぶことになるのです。
以上より,14%賃金を減額する労使協定は,
労働組合を脱退した労働者に適用されず,
14%減額される前の賃金を請求できることになりました。
会社は,労働者の知らないところで,
労働条件を引き下げようとしてくるかもしれませんので,
受け入れられない労働条件の引き下げにはノーと言いましょう。
本日もお読みいただきありがとうございます。