石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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残業代請求の裁判におけるタイムカードの重要性【弁護士が解説】
1 労働時間の証明
会社で長時間労働をしているのに、残業代が支払われていません。
残業代が支払われないので、
タイムカードを打刻したり、打刻しなかったりしています。
タイムカードに打刻漏れがある場合でも、
未払残業代請求をすることができますか。
結論から先に言いますと、タイムカードの打刻漏れ部分を、
その他の証拠で補強できるならば、未払残業代請求は可能です。
今回は、未払残業代請求における、
タイムカードの重要性について解説しますので、
ぜひ最後までお読みください。
まずは、労働時間の証明について、解説します。
残業代請求事件においては、労働者が、
自身の労働時間を証明しなければなりません。
すなわち、日ごとに、始業時刻と終業時刻を特定し、休憩時間を控除して、
何時間何分労働したのかを、労働者が特定しなければならないのです。
ということは、労働者が、自身の労働時間の証明ができなかった場合、
裁判において、残業代請求が認められない、という結果になってしまうのです。
逆に言うと、労働者が、労働時間の証明ができれば、
会社からの反論が認められる余地は少なく、
結果として、残業代請求が認められることが多いです。
例えば、残業代請求の裁判では、会社から、
管理監督者という反論がよくありますが、
労働基準法における管理監督者の要件は厳しく、
管理監督者という会社の反論が認められないことが多いです。
そのため、労働時間の証明ができれば、
ある程度の残業代請求が認められる可能性が高いことから、
労働時間をどうやって証明するのかが、とても重要になるのです。
ちなみに、厚生労働省が、労働時間の適正な把握のために
使用者が講ずべき措置に関するガイドラインを公表しております。
このガイドラインには、会社は、労働時間を適正に把握するなど、
労働時間を適切に管理する責務を有していると規定されています。
このように、会社は労働時間把握義務を負っていることからすれば、
労働時間の証明責任は会社にあると言いたいところですが、
裁判実務では、労働時間の証明責任は労働者が負っていることになっています。
2 タイムカードの重要性
次に、タイムカードの重要性について解説します。
タイムカードの打刻により、打刻時刻が機械的に印字されるので、
タイムカードの打刻時刻は、労働者の出勤時刻及び退勤時刻を
ほぼ正確に示すものといえ、タイムカードは、
労働者の労働時間を端的に立証する信用性の高い証拠といえます。
そのため、特段の事情がない限り、タイムカードの記録どおりに、
労働者が労働を開始し、労働を終了したと事実上推定されます。
すなわち、会社が、タイムカードに記録された時刻に労働していなかったという、
特段の事情について、主張と立証ができなかった場合には、
タイムカードに打刻された始業時刻から終業時刻まで働いていたと
認定されるのです。
もっとも、タイムカードに打刻漏れ等がある場合には、
この時刻からこの時刻まで働いていたと正確に記録されていませんので、
他の証拠で補強する必要があります。
具体的には、パソコンのログやメールの送信時刻、
入退館記録、同僚の証言などの証拠で、労働時間の証明を補強します。
3 残業代請求をするための準備
最後に、残業代請求をするための準備について、解説します。
①タイムカードは、超重要な証拠なので、正確に打刻するべきです。
タイムカードを正確に打刻していないと、
労働時間を証明することができず、
残業代請求が認められないというリスクがあります。
会社から残業するなら、タイムカードを打刻した後にするように言われても、
このような業務命令に従ってはいけません。
このような業務命令は、先ほど紹介した、
会社の労働時間把握義務に違反する違法なものですので、
従う必要はなく、最後まで働いた時刻で、タイムカードを打刻してください。
もっとも、会社からの、タイムカードを打刻後に残業する命令が厳しかったり、
そもそも、タイムカードがない場合には、
グーグルマップのタイムラインを利用するなどして、
自分で労働時間を記録してください。
グーグルマップのタイムライン以外にも、スマホのGPS機能を利用して、
自分で労働時間を記録するアプリがありますので、それらを利用して、
自分で労働時間を記録するべきです。
自分の身は自分で守るのが基本です。
②退職する前に、労働時間の証拠を確保するべきです。
退職する前であれば、タイムカードをコピーする等して、
証拠を確保することは、比較的容易ですが、退職した後に、
労働時間を証明するための証拠を確保するのは、手間がかかります。
残業代請求の時効は3年なので、3年間分の残業代請求ができるので、
退職する前に、3年間分のタイムカードを確保するのが理想です。
退職した後に、労働時間の証拠を会社に開示するように求めた場合、
会社が労働時間の証拠を破棄するリスクがあります。
私が過去に経験した事件では、退職後に、
労働時間が記載されている業務日報の開示を会社に請求したところ、
会社からは、業務日報が見つからないので、だせないと回答がありました。
会社は、労働時間の記録を保存しなければならないのですが、
労働時間の記録がないのであれば、労働時間の証明責任が労働者にあることから、
残念ながら、残業代請求は認められません。
そのため、退職する前に、労働時間の証拠を確保しておくべきなのです。
③残業代請求について、弁護士に相談してください。
残業代の計算は複雑なので、弁護士に正確に計算してもらう必要があります。
また、残業代請求について、会社からどのような反論が予想され、
その会社の反論が認められる余地がどの程度あるのかについて、
弁護士は、見通しをアドバイスしてくれます。
そのため、未払残業代請求については、ぜひ、弁護士にご相談ください。
今回も、最後まで、お読みいただき、ありがとうございます。