石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
残業代を支払わない会社の代表取締役に対して未払残業代請求相当の損害賠償請求をして221万円を回収した事例
1 きっかけはパワハラの法律相談
上司からのパワハラが辛くて、会社を退職することにしたのですが、
会社の対応に納得がいかないので、会社に対して、何か請求したいです。
でも、パワハラを証明するための録音等がないです。
このような場合、会社に対して何か請求できないのでしょうか。
パワハラの証拠がなくても、
タイムカード等の労働時間を証明できる証拠がある場合、
残業代請求をすることで、会社に対して、一矢報いることができます。
今回は、パワハラの法律相談から、会社に対して、未払残業代請求をして、
労働審判で未払残業代請求が認められたものの、
会社が解散したため、会社の代表取締役に対して、
未払残業代請求相当の損害賠償請求をした事件をご紹介します。
クライアントは、居宅介護支援事業所で働いていたケアマネジャーです。
クライアントは、会社で、上司から、
「あなたには能力がない」、「誰もあなたを信頼していない」等と、
パワハラを受け、このような会社で働くことに疑問を感じ、
会社を退職することにしました。
会社からの理不尽な対応に納得がいかないクライアントは、
私のもとに相談に来られました。
クライアントの相談を聞いたところ、
上司のパワハラを証明するための、録音等の証拠がなく、
パワハラの損害賠償請求をするのは難しいことが予想されました。
他方、クライアントには、残業代が支払われていませんでした。
出勤簿にクライアントの労働時間が正確に記録されていたことから、
労働時間を証明することは容易であり、
未払残業代請求が認められる可能性が高いと考えました。
そこで、パワハラを放置して、退職に追い込んだ会社に対して、
未払残業代請求をすることにしました。
2 未払残業代請求の労働審判
クライアントから事件の依頼を受けた私は、
会社に対して、未払残業代請求の通知書を送付しました。
会社からは、クライアントが管理監督者に該当することから、
未払残業代請求には応じられないとの回答がありました。
労働基準法の管理監督者に該当すれば、会社は、
管理監督者である労動者に対して、残業代を支払わなくてもよくなります。
もっとも、労働基準法の管理監督者の要件は厳しく、
多くの会社では、管理監督者の要件を満たしていないにもかかわらず、
労働基準法に違反して、違法に残業代を未払いにしています。
労働基準法の管理監督者に該当するための要件は、次のとおりです。
①事業主の経営上の決定に参画し、
労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)
②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)
③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること(賃金等の待遇)
クライアントは、ケアマネジャーの現場の仕事をしていただけで、
会社の経営に何も関与していなかったため、①の要件を満たしません。
クライアントは、多くの利用者を担当して、長時間労働を強いられており、
労働時間の裁量はなく、②の要件を満たしません。
クライアントは、ケアマネジャーの平均的な年収しか得ておらず、
管理監督者にふさわしい待遇を受けていないことから、③の要件を満たしません。
そのため、クライアントは、管理監督者に該当せず、
会社に対して、未払残業代請求ができます。
会社が、未払残業代請求の支払いを拒否したため、
裁判所に、労働審判という裁判手続の申立てをしました。
労働審判の手続きにおいて、裁判所は、当方の主張を受け入れて、
当方が請求した未払残業代請求が満額認められました。
労働審判で、クライアントの未払残業代請求が認められたものの、
会社が、未払残業代を支払う気配がなかったため、
会社の財産に差し押さえをして、未払残業代を回収しようと考え、
会社の商業登記を調べたところ、
会社が労働審判の途中で解散していることが発覚しました。
会社の財産を調査したところ、取引先に対する売掛金債権があることが判明し、
その売掛金債権を差し押さえしましたが、取引先からは、
当該売掛金債権はもう存在しないと回答があり、
差し押さえは、不発に終わりました。
3 代表取締役に対する未払残業代相当の損害賠償請求
会社が解散してしまい、差押をしても、
未払残業代が回収できなかったため、次の一手として、
代表取締役に対して、未払残業代相当の損害賠償請求をすることを考えました。
会社が、労動者に対して、時間外労働や休日労働に対して、
残業代を支払うことは、労働基準法で定められた基本的な法的義務です。
会社の代表取締役は、会社に労働基準法を遵守させ、
労動者に対して、残業代を支払わせる義務を負っています。
それにもかかわらず、本件会社の代表取締役は、本件会社において、
クライアントに対して、残業代を支払わなかったことから、
代表取締役としての任務懈怠が認められ、
会社法429条1項に基づく、損害賠償責任を負います。
そこで、会社の代表取締役に対して、
未払残業代相当の損害賠償請求の裁判を起こしました。
会社の代表取締役は、クライアントが管理監督者だと思い込んでいたので、
過失がなかったと争いました。
第1審では、クライアントに対する残業代の未払いの原因は、
会社の事業継続が困難になったことが原因であり、
代表取締役の任務懈怠が原因ではないと判断され、
残念ながら、敗訴してしまいました。
しかし、第1審では、クライアントに対する残業代の未払いの原因が、
会社の事業継続が困難になったことにあるといったことは争点になっておらず、
不意討ちの不当判決でした。
控訴審では、会社の事業継続が困難ではなく、
代表取締役の任務懈怠とクライアントとの損害との間に因果関係が認められること
を主張しました。
結果として、控訴審では、
代表取締役の任務懈怠とクライアントとの損害との間に因果関係が認められ、
未払残業代相当の損害賠償として、221万6082円の請求が認められました。
そして、代表取締役から、
221万6082円満額の支払いを受けることができました。
解決までに、時間がかかりましたが、
最終的には、未払残業代相当の損害賠償請求が認められ、
会社からの理不尽な対応に対して、一矢報いることができて、
クライアントが満足されたことが、とても嬉しかったです。
このように、パワハラでは証拠がなかったとしても、
未払残業代の証拠があれば、未払残業代請求で、
会社に対して、理不尽な対応をしたことについて、一矢報いることができます。
パワハラや未払残業代でお悩みの場合には、ぜひ、弁護士にご相談ください。