石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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森友学園の決裁文書改ざんの強要による自殺と公務災害
学校法人森友学園への国有地売却をめぐり,
決裁文書改ざんを強要されたというメモを残して自殺した
近畿財務局の男性職員について,公務災害が認定されました。
https://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2019080802000058.html
財務省理財局は,近畿財務局に指示をして,
決裁文書から安倍昭恵氏に関する記述や
政治家秘書らのはたらきかけについての部分を削除したのですが,
自殺した男性職員は,担当の部署に所属しており,
毎月100時間に及ぶ残業をしていたようです。
本日は,森友学園の決裁文書の改ざんに関する
公務災害について説明します。
まず,公務員には,労災保険法の適用はありませんが,
その代わりに,国家公務員には国家公務員災害補償法,
地方公務員には地方公務員災害補償法に,
それぞれ基づいた公務員災害補償制度が設けられています。
国家公務員の場合,人事院が指定する補償実施機関が
公務災害の認定手続の事務を取り扱っており,
被災した公務員や遺族は,補償実施機関の中に置かれている
補償事務主任者に対して,公務災害による補償の請求を行います。
国家公務員が精神障害を発症して自殺した場合,
「精神疾患等の公務上災害の認定について」
(平成20年4月1日職補―114)という認定基準に基づいて,
公務災害か否かが認定されます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000wipv-att/2r9852000000wj02.pdf
この認定基準では,次の要件を満たせば,公務災害と認定されます。
①精神疾患の発症前おおむね6ヶ月の間に,
医学経験則に照らし,当該疾患の発症原因とするに足る
強度の精神的又は肉体的負荷を業務(一般的には業務上の諸事象が重積)
により受けたことが認められること
②個体的な要因,私的な要因により
発症したものとは認められないこと
この①の強度の精神的又は肉体的負荷を受けたかについて,
「公務に関連する負荷の分析表」という資料があり,
そこに記載されている具体的な出来事にあてはめて,
業務負荷の程度を検討します。
森友学園の決裁文書の改ざんについては,
「社会問題化した事態に対応した」,
「行政上の不手際が発覚し,責任を追及された」,
「責任者として事態の収拾に当たった」
という出来事に当てはまりそうです。
また,民間労働者に適用される
「心理的負荷による精神障害の認定基準」には,
さらに具体的に出来事が記載されています。
そこには,「業務に関連し,違法行為を強要された」
という具体的出来事が記載されており,
「業務に関連し,重大な違法行為(人の生命に関わる違法行為,
発覚した場合に会社の信用を著しく傷つける違法行為)を命じられた」,
「業務に関連し,強要された違法行為が発覚し,
事後対応に多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)」
場合には,心理的負荷が「強」と認定されます。
森友学園のケースにあてはめてみると,
自殺した男性職員は,決裁文書の改ざんという
発覚した場合に財務省の信用を著しく傷つける違法行為を命じられて,
さらにそれが発覚して,1ヶ月100時間ほどの残業をしていた
のでありますから,心理的負荷は「強」と認定されると思います。
優秀な国家公務員が,決裁文書の改ざんという
違法行為を指示されれば,
上からの業務命令に服従すべきか,
違法行為を是正すべきかという葛藤が生じて,
精神的な負荷は相当に強かったと考えられます。
そのため,決裁文書の改ざんという違法行為の強要に加えて,
1ヶ月100時間ほどの残業があれば,
自殺が公務災害と認定されるのは妥当な結論だと考えます。
違法行為の強要によって自殺者が出るという
悲劇は二度と起きてほしくないです。
本日もお読みいただきありがとうございます。