石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
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入社時期繰り下げへの対処法
会社から内定をもらったものの,
今いる従業員が退職しないので,
入社を待つように言われ,待っていたものの,
いつまでたっても,会社から連絡がなく,
しびれを切らして,会社に連絡したところ,
会社から採用内定取消の通知がきました。
このように,入社時期を当初の入社時期から繰り下げられた場合,
労働者としては,どのように対処すればいいのでしょうか。
本日は,入社時期繰り下げへの対処法について解説します。
まず,会社が労働者に対して,採用内定通知を出した時点で,
会社と労働者との間に労働契約が成立します。
この労働契約は,入社予定日を就労の始まりとするものであり,
入社予定日までに採用内定取消事由が生じた場合には,
労働契約を解約することができるという解約留保権が付いています。
採用内定取消事由は,通常内容内定通知書などに記載されており,
内定通知の時点から,入社予定日までの間に,
労働者に採用内定取消事由が認められれば,会社は,
留保されている解約権を行使して,
採用内定を取り消すことができます。
もっとも,採用内定の取消は,会社が一方的に行うものであり,
採用内定通知を受けた労働者に対して
大きな不利益を与えることになることから,制約があります。
すなわち,会社が採用内定当時知ることができず,
また知ることが期待できない事実が後から判明し,しかも,
その事実によって採用内定を取り消すことが,
客観的に合理的と認められ,社会通念上相当といえる場合に限って,
採用内定取消が有効となるのです。
たんに,採用内定通知書に記載されている
採用内定取消事由に該当するだけではなく,
上記の要件を満たさないと,
採用内定取消はできないのです。
さて,採用内定通知によって,労働契約が成立するので,
入社予定日に労働者は出社して働かなければならないのですが,
会社の都合で,入社時期を繰り下げられた場合,会社は,
労働者からの労務の提供を受け取ることを予め拒否したことになります。
そのため,労働者は,会社の「責めに帰すべき事由」によって,
働くことができなくなったので,民法536条2項によって,
働くことができなかった期間の賃金全額を請求することができます。
会社が入社時期を繰り下げてきた場合,会社は,
労働基準法26条を根拠に,入社時期を繰り下げていた期間中の
60%の賃金補償しかしない場合があります。
しかし,労働基準法26条は,会社の責めに帰すべき事由
による休業の場合,平均賃金の60%以上の手当を支払わないと,
会社に30万円の罰金が科されるという刑事罰に関する規定であり,
民事においても60%だけ支払えばいいということにはなりません。
よって,会社の都合で入社時期を繰り下げられたのであれば,
労働者は,入社時期を繰り下げられた期間中の
賃金全額を会社に対して請求できます。
また,以前から勤務している従業員が退職しないことを根拠に
採用内定を取り消すことは,会社が採用内定時において
知ることが期待できない事実ではなく,また,
客観的合理的な理由とはいえず,
社会通念上も相当といえないので,無効となると考えます。
会社の都合で入社時期を繰り下げられた労働者は,遠慮なく,
会社に対して,賃金全額の支払を請求すればいいのです。
本日もお読みいただきありがとうございます。